危険なポリープとは何か?

これは「ポリープ切除で大腸癌を予防する」というミッションで最重要問題です。当サイトでも2018年の「CMS1,4が超危険な癌。その起源はSSAP」記事以来、何度も取り上げてきたテーマです。
最近、昭和大学から「Uc型大腸癌はCMS4である」という報告がありました。良性のUc型腺腫の解析ではないのですが、予想された結果です。今後は以下のようなモデルが「ポリープのリスク評価の基本形」になると考えます




通常の腺腫はCMS4にならないから放置でもよい?
   CMS1  CMS2  CMS3  CMS4
 遺伝子変化  BRAF
CIMP,MSI
 SCNA
WNT/MYC
RAS  TGFβ
SCNA
 予後  悪い  良い 非常に良い  非常に悪い 
頻度  14%  37%  13%  23% 
CMS4はSCNA(染色体不安定性)とTGFβ活性化(間質反応)を特徴としますが、超悪性度の理由はTGFβ活性化にあります。これは腫瘍細胞固有の異常ではなくて遺伝子異常の無い周囲の間質細胞に起きます。 この事実は単一細胞の遺伝子解析技術により最近になって解明されました。低悪性度癌も末期には周囲環境の変化でCMS4になります。そのため実数で言うとCMS4の大部分は腺腫(CMS2)由来です。しかしUcとSSAPは「早期の段階からCMS4的性質を持つ」点が重要なのです。今後ば高齢者にポリープが見つかった場合「通常型の腺腫は放置。UcとSSAPは切除」という方針も合理性を持つでしょう。

SSAPがCMS4の起源?
CMS分類の原型は2013年のNatureの先駆的論文ですが、この報告で「SSAPは良性の段階からCMS4的性質を持つ」ことが報告されてから、この問題は議論になって来ました。しかしCMS4の大部分は腺腫由来でありSSAP由来は10%です(→2019年記事)。この「乖離」はSSAPはDormnat(休眠状態)にあることで説明されます(→2022年記事)。BRAFの持つ2面性(分化を誘導し癌化抑制的に働く)も解ってきました(→2024年記事)。稀なUcと異なりSSAPは高頻度に見つかります。眠っている悪魔を起こさないことが重要なのですが、この問題は「アンチエイジング」と深い関係があります(→2022年記事)。


なぜ陥凹型(Uc)は危険なのか?
良性の微小Ucの遺伝子解析の報告は少ないのですが、陥凹型ではKi67の発現低下が確認されています(文献)。つまりは「陥凹部分は細胞分裂が低下している」訳です。これは2022年の記事にある「細胞はストレスに直面したら細胞分裂を止める(細胞老化に入り休眠する)という生命の基本的な安全装置」によるものです(Oncogene Stress)。この安全装置(ブレーキ)が壊れると癌になります(休眠からの覚醒)。ですから陥凹は「まだ癌では無いが癌化の直前」を意味します。特に「小サイズなのに陥凹している」病変は短期間に腫瘍進化(IntraTumor Heterogenity⇒2021年記事)が起きたことを意味します(=ゲノム不安定性)。これがSCNA(染色体不安定性)です。

SSAPとUc。似て非なるもの?
両者とも「大きなパラドックス」を持っています。「Ucは悪性度が高い。それなら細胞増殖が盛んになり隆起するはずだ?なぜ陥没するのか?」「SSAPは多く見つかるのにCMS4に進展するのは少数なのは何故か?」。おそらく、Dormancy(休眠)が重要なカギであり、分子生物学的に興味深い現象なのですが臨床的に重要なのは以下の事実です。
SSAPもUcも「見落とし安い」ため、内視鏡後大腸癌(PCCRC)の重要な犯人です。SSAPは「右側の」、Ucは「左側の」PCCRCの原因となります。これらは癌体質の方に好発する傾向があります。特にSSAPとUcの両方が多発した方には最高レベルの警戒(=毎年の大腸内視鏡)を推奨します。


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