新しい大腸癌の分類
遺伝子解析で見えてきた危険な大腸癌のサブ・グループ
ここの内容は一見すると「検診」には関係ないように見えるのですが・・・実は大いにあるのです。「大腸癌はゆっくりと進行する。定期健診で早期発見すれば死亡しない」という迷信が広く普及しています。しかし、残念ながら、これは大腸癌検診の普及のために、意図的に広められた「迷信」です。
確かに大部分の大腸癌は「進行がゆっくりで転移しにくく早期発見で根治できる」のですが、中には(胃のスキルス癌のように)急速に進行し早期から転移するタイプがあります。
このような「急速型」への対応が「大腸癌検診で最大の問題」になる訳です。
従来、大腸癌は顔つき(病理形態)や発生場所(直腸か結腸か)で分類されていました。しかし、この方法では「急速型」が明確になりませんでした。
つまり
胃のスキルス胃癌は顔つき(病理検査)で明確に超悪性癌であると区別できたのですが大腸の超悪性癌は病理検査では区別できなかったのです
近年のDNA解析技術の進歩で大腸癌の「全遺伝子(DNA)解析」「全転写産物(トランスクリプトーム)解析」が行われるようになりました。
その結果・・・・
Hypermutated(CMS1)、CMS4型と呼ばれる「急速型の大腸癌」の存在が明らかになってきました。
2012年米国が大腸癌・全遺伝子解読に成功
2012年、米国NIHのThe Cancer Genome Atlas (TCGA) プロジェクトで300名近い大腸癌の「全遺伝子解析」がおこなわれました。論文内容を以下に要約すると・・・・
検診で「見落とし」が問題となるHypermutatedタイプ
このタイプは遺伝性大腸癌であるHNPCC(リンチ症候群)の方に見られるのですが、一般の方にも見られます。どちらの場合も右側(盲腸・上行結腸)に多いという特徴があります。
現時点でHypermutated=急速型という「証拠」はありません。確かめるには遺伝子解析をした病変を放置して経過観察する必要がありますから確かめられません。
しかし・・・・
「HNPCC(リンチ症候群)の方は見落としが起き易い」「右側(上行結腸)は見落としが起き易い」という二つの事実があります。これらを総合すると・・・
Hypermutated=ゲノム不安定=早い腫瘍進行=急速型=検診で見落としが起き易い右側の癌という図式ができます。
2015年、世界中からデータを集合し国際分類が確立
2015年、米国と欧州の国際会議での分類consensus molecular subtypes (CMS)という分類が決められました。上記のTCGAプロジェクトを含め4000人分の大腸癌の遺伝子解析をした計18のデータを世界中から集計して、6つの専門チームが6通りのアルゴリズムで解析して、最後に「ネットワーク解析で統合」するという今まで前例のないスケールの大きな研究です・・・・。
CMS1 (MSI有り 免疫反応強い)=上記のHypermutatedに相当
CMS2 (通常型),
CMS3 (代謝異常あり),
CMS4 (間質反応強い)の4グループに分類
用語解説 CIMP, CpG Island Methylator Phenotype; MSI, microsatellite instability; SCNA, somatic copy number alterations; TGF, transforming growth factor
この2015年の分類で明らかになったのがCMS4 と呼ばれる悪性度の高いグループです。
2013年には「悪性度の高い癌は過形成ポリープ(SSAP)由来である」という報告がありました。これが、その後CMS4と定義されます。
これらを総合してCMS4を、poor-prognosis stem/serrated/mesenchymal (SSM) transcriptional subtype of colorectal cancer と呼ぶ論文もあります(研究者たちはCMS4の高い悪性度の原因が「間質細胞との相互作用」にあると考えています)。
その後、世界中から「CMS4が断トツで予後が悪い」という追試報告が相次いでいます。
2016年には「SSAPがTGFβシグナルが無いとCMS1に変わるがTGFβシグナルが強いとCMS4に変わる」という報告がありました。
「超危険な大腸癌」の正体が徐々に明らかになってきたと言えます
大腸癌死亡を防ぐには予後の悪いCMS1,CMS4を予防することが肝要であり、その前駆体として重要なのはCMS1は遺伝子不安定性の強い人たち(=癌家系の人たち)、CMS4はSSAP(過形成ポリープ)です。
大腸癌検診では「遺伝子不安定性の強い癌家系の方」と「SSAP・過形成ポリープ」が最も重要なターゲットなのです!
追記(2018年10月)
京都大学の本庶佑先生がノーベル賞を受賞され「免疫療法」が話題です
最近、上記のCMS1(MSI-High,Immune activation)に分類される大腸癌にオブジーボなどの免疫系を賦活する分子標的薬が非常に効果が高いことが解り、適応が拡大されています(文献)