MSI陽性・腺腫は「未分化癌・超悪性癌・急速癌」の真犯人か?

マイクロサテライト不安定性(MSI)とは?
ゲノム不安定の場合に見られる現象です。但し決して「イコール」ではありません。「MSI陰性のゲノム不安定」も多いからです(点変異型、染色体不安定型、トランスポゾン型など)。通常、MSI以外のゲノム不安定性は「ゲノムの全解読」をしないと調べられません。ですから臨床の場で使えません。対してMSIはPCRで簡単に調べられますから、臨床の現場ではMSI検査が重宝されます(それだけのことで、これが最も重要という意味ではありません)。
何故、MSIが重要か?
癌の治療の場合は「抗癌剤、特に免疫チェックポイント阻害の効果が高い」からです(以前の記事)。
そして検診の場では、これが急速癌(=内視鏡後・大腸癌)の大きな原因だからです(以前の記事)。
MSI腫瘍の代表はHNPCCとSSAP
MSIはMLH1という遺伝子の機能不全で起きます。MLH1はDNAの校正装置です。HNPCC(リンチ症候群)の方は、体質的にMLH1に異常があり、MSI(+)腺腫が発生します。HNPCCでない方でもSSAP(過形成ポリープ)はMLH1に異常を起こします(以前の記事)。
 しかし、ここで話は終わらず「HNPCCではない、一般の方」にも、MSI(+)腺腫が見られることが解ってきました。今回は、この謎の多い「MSI(+)腺腫」の話です。

MSI(+)腺腫は最も危険なポリープ
HNPCCの方に「急速型の癌」が多いという事実から、MSI(+)のポリープは「癌化が早い危険なポリープ」と予想されています。以下の理論から、「MSI陽性腺腫は最も危険なポリープ」と理論的に予想されます。

 10年より昔の理論 10年位前から の理論  今回の話題
 腺腫がSSAP
より癌化が早い
 SSAPは腺腫より癌化
が早い
 MSI陽性腺腫
癌化が最も早い?
 根拠
腺腫はWNT(APC)が異常
で、幹細胞化しているから
 根拠
SSAPは、ゲノムが不安定
(MSI陽性)だから
 根拠
左の二つの要因を
併せ持つから


MSI(+)腺腫と思われるポリープ(Ua+Uc+Ua型
数ミリの病変(良性)ですが、3つの異なる区域が確認されます。短期間の内に腫瘍進化(Intra Tumor Heterogenity)が起きていることを意味します。ゲノムの不安定性(MSI)が示唆されます。

 (専門的)MSI(+)腺腫の遺伝子解析が進む
 「BRAF正常、RAS異常の腺腫がMLH1メチル化からMSI(+)癌に進展する」というモデルが2016年から2017年にかけ報告されました。更に「RAFもRASも正常で、Kinase-Fusion(+)からMSIになる」というタイプが2019年2019年2020年2020年に報告されます。Kinase-Fusion(;+)は、これを阻害する分子標的薬が著効することから「MSI陽性大腸癌はKinase-Fusionの有無を、スクリーニング的に調べるべきである」というコンセンサスが出来つつあります(2021年

 MSI(+)癌は「高悪性癌(未分化癌)」とイコールか?
「悪性度の高い癌とは未分化癌、髄様癌である」というのが、(遺伝子解析が進む前の)癌病理学の常識でした。このタイプは腫瘍内に異なる細胞が混在することが多く(Intra Tumor Heterogenity)、ゲノム不安定性が示唆されることから「MSI(+)癌とイコールではないか?」と予想されています。
この予想を調べた報告は多く、高悪性度癌の「72%がMSI(+)」、「78%がMSI(+)」、「53%がMSI(+)」と報告されています。
 未分化癌とは何か?
腸の分化のマスターHomeoBox遺伝子であるCDX2と、接着分子であるカドヘリンが研究の中心ですが、これとMSIの関係については・・・様様な報告が有りコンセンサスがありません。

 ゲノムの不安定性は複数のタイプがある。併発は?
MSIは「不対合修復系の異常」で、ゲノムの「塩基置換」になります。左側過形成ポリープ(TSA Pathway)に見られるMGMT異常も同じく「塩基置換」になります。遺伝性乳癌やFCCTX(遺伝性大腸癌)、ではBRCAが異常で「染色体不安定性」になります。p53異常も同様でCMS4型はこのタイプです。若年性大腸癌(EOCRC)ではARID1異常が見られ、「クロマチン(エピゲノム)不安定性」が起きます。
これらの異なる不安定性は、当初は「共存は稀」と考えられました。(The Cell 6版20章p1125)
しかし未分化癌を調べると複数の不安定性を併せ持つ(MSIとARID1異常の併発)と報告されています。この現象は、今後の重要課題です。