大腸癌の起源は何か?「腺腫」は、もはや主役ではない

ポリープ切除で大腸癌を予防」するという戦略を成功させるには「大腸癌の源となる良性病変は何か?」が、最も重要な問題です。

現在、大腸癌は遺伝子解析により4タイプに分けられます。そして、最近は「良性のポリープの遺伝子解析をして、どのようなポリープがどのタイプの癌に変わるかを調べる」という報告が見られるようになりました。
   CMS1  CMS2  CMS3  CMS4
 遺伝子変化  BRAF
CIMP,MSI
 SCNA
WNT/MYC
RAS  TGFβ
SCNA
 予後  悪い  良い 良い  非常に悪い 
頻度  14%  37%  13%  23% 
 起源  右側の
過形成ポリープ
 腺腫 不明  大きな
過形成 ポリープ

最初に起源が解ったのはCMS4。起源はSSAP(大きな過形成ポリープ)
これは2013年に報告されました。CMS4とSSAPの遺伝子発現パターンが類似しているという報告です。そして、この報告により「遺伝子解析の重要性」が、認識され、その3年後に上記のCMS分類が提唱されたのです。同時にSSAP⇒CMS4進行の分子生物学的解析も報告されました。2018年には腺腫の遺伝子発現を調べたが「CMS4類似の発現パターンは腺腫には全く確認されなかった」との報告がありました。通常は癌抑制遺伝子として働くTGFβが「浸潤・転移を促進する」のがCMS4の大きな特徴です。別名SSM( stem/serrated/mesenchymal type)とも呼ばれます

次に起源が解明されたのはCMS1(起源は右側の過形成ポリープ、MVHP)とCMS2(起源は腺腫)
これは当初から予想されていたことなのですが、2018年に詳細な報告があり「確定」しました。CMS1は遺伝子が不安定で短期間に多くの変異を蓄積していくHNPCCタイプの癌です。CMS2は腺腫由来の大腸癌で、最も古典的なタイプです。進行が遅い病変で「内視鏡で切除したポリープの一部が粘膜内癌だった」という場合は、まずCMS2です。


そしてCMS3が「起源不明の癌」として残りました



CMS3の特長は以下のような物です(文献

現在の知見で上記のCMS3と似たような遺伝子変化を起こす良性ポリープは、2種類あることが解っています。(重要文献リスト

一つは・・・
左側の過形成ポリープ(=GCHP,RAS型Hyper)です

直腸・S字結腸の過形成ポリープは「癌化する危険(確率)」は非常に低い病変なのですが、これが直腸・S字結腸癌の起源(TSA passway)という説が有力です・
左側の過形成ポリープ(GCHP)⇒鋸歯状腺腫(TSA)⇒柔毛管状腺腫(TVA)⇒柔毛腫瘍(Villous Adenoma)⇒癌

そして、もう一つは
側方発育型・平坦型腺腫LSTです
昔は非常に危険視されたのですが、最近は「癌化しにくい、癌化しても浸潤・転移しにくい」ことが解り「最も安全視」されるようになりました。この病変も上記のCMS3と似た遺伝子異常が報告されています。2018年には「腺腫の中で低リスクな物を調べると、ほとんどがCMS3タイプであった」という報告がありました。

低リスク腺腫⇒側方発育型腺腫(LST)⇒CMS3、という「低リスク癌Pathway」が想定されます。

癌で調べるとCMS3は「最も少数派」ですが良性腺腫で調べるとCMS3が「最多数派」になるという報告が2018年にありました。CMS3は特別なタイプというよりも「遺伝子変化の軽い、悪性度の低い初期病変」を見ているのかもしれません





   大腸癌の起源は半分が過形成ポリープであるというのが現代分子生物学の予想です。
しかし30年前は「大腸癌は腺腫から発生する。過形成ポリープは癌化しない」と信じられ、長い間、放置されてきました。

どうして、このような悲劇が起きたのでしょう?

これは「医学ミステリー」とも呼べる事件だったのです。

ミステリーの謎解きはこちらを・・・