ハイ・リスクの方について

特殊な病態(a-FAP,HNPCC,SPS)で「ポリープの数が非常に多く大腸癌のリスクが極めて高い方」がいます。このグループの方は、通常の方と異なる対応が必要です。

ここではa-FAP,HNPCC,SPSの用語の説明は省略します。遺伝子の問題(生まれながらの体質)であり、治療法が無いものを悩んでも仕方が無いからです。

(1)残念ながら、このグループの方は毎年、内視鏡を受けても大腸癌になる可能性があります。リスクが高すぎるのです。大腸癌検診を過剰に信頼するのは危険です。もちろん、「絶対に癌になる」という意味ではありません。現状では、「予防的手術(大腸の亜全摘)」は通常は選択されません。亜全摘は大変な手術であり、そこまでリスクが高いとは考えられていないからです。しかし外科医にセカンド・オピニオンを希望する場合は、お渡ししたUSBを使用してください(注意点

(2)このタイプの方は大腸だけの問題ではなく、「全身に癌ができやすい」傾向があります。大腸内視鏡以外の他の癌の検診も受けるべきです。但し被爆の点からレントゲンを使った検診には慎重になるべきです(理由)。しかし全ての癌を予防することは不可能です。お子さんが小さい方は・・・早めに生命保険、がん保険の契約を検討すべきです。癌の診断がついたら、もう保険の契約は、できません。
   大腸以外に多い癌(大体の傾向であり例外も多いです)
 腺腫が多発(aFAP型) 詳しく 胃、十二指腸、
 過形成が多発(SPS型) 詳しく 2019年度版 特に好発部位は無く、一般的に多い癌と同じ
 腺腫と過形成。ポリープの数は少ないが悪性度が高い(HNPCC型) 詳しく  子宮(体癌)、卵巣、胃、十二指腸、小腸、尿路(膀胱、腎盂)
遺伝性乳癌、前立腺癌、膵臓癌、脳腫瘍も報告あり
 過誤腫性ポリープが多発(JPS型、PJS型)  不明

(3)残念ながらお子さんにも体質が遺伝している可能性があります。しかし、お子さんに遺伝の話をすべきではありません。「我が家は癌が多いから、お前も検診を受けなさい」程度にしておくべきです。また現状では遺伝子検査をしても特に有益な事は多くありません

(4)このグループの方は「定期的に内視鏡を受けていれば大丈夫」という発想は危険です。
タバコなどの発癌物質を回避するライフスタイルの改善など、総合的な対策が必要です。これについてはこちらをお読みください 

(5)多くの方は予防手術は希望しないが座して癌になるのを待つのは、受け入れられないと考えます。現在、米国では、このようなハイリスクグループの方へのアスピリン服用が検討されています。アスピリンの最大の魅力は大腸だけでなく他の全身の癌(特に
膵臓癌)に予防効果が確認されている点です。



以下、アスピリンによる大腸癌予防について解説します

まず、主な臨床研究の要約です
2010年 Lancet アスピリン服用で右側(盲腸・上行結腸)大腸癌発生が70%減少
2011年 Lancet アスピリン服用でHNPCCの方の大腸癌発生が60%減少
2013年 Annals of Int Med 半分の服用量のアスピリンで右側大腸癌発生が減少したが他の癌は減少せず
2014 米国癌協会(ACS) アスピリンの長期服用により、大腸癌の発症リスクが約40%低下する
食道癌と胃癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌のリスクも10-20%低下する
しかし副作用に対する懸念から、現在ACSは癌予防目的でのアスピリン服用は推奨しない
2014年 国立がんセンター
京都府立医科大学
日本で行われた貴重な臨床研究です。アスピリン服用で大腸ポリープ発生が40%減少しました。
2015年 米国予防医学
作業部会
(USPSTF)
(1)心血管疾患のリスクが高く、(2)出血リスクが低い、(3)最低でも10年の平均余命がある――50-59歳の男女に対し、アスピリンを推奨。60歳以上の方は出血リスクが高いので推奨しない。
 2015年  京都府立医科大学  低用量アスピリン投与による大腸癌予防効果試験開始(J-CAPP StudyII)
 2016年  BMJ  大腸ポリープ・癌の既往のある方1万2千人で大腸癌の予防効果を調査。低用量アスピリンで大腸癌発生が30%減少した。アスピリン以外のNSAIDにも強い予防効果があるが副作用とのバランスはアスピリンが最善。
 2016年  Annals of Int Med  アスピリン服用群で大腸癌の20年死亡率が30%低下した。効果は服用開始10年後から認められた
2017年 米国癌学会
(AACR)
米国の医療従事者13万人で調査
アスピリン服用で全死亡リスク(女性で7%、男性で11%)とがんによる死亡リスク(女7%、男15%)が低下。最も効果が大きいのは大腸癌(女31%、男30%)。他の癌では乳癌は11%、前立腺癌は23%、肺癌は14%、死亡率が低下した。

「体質的に大腸癌・ポリープのリスクの高い方」がアスピリンを飲むことで、かなりの予防効果が期待されることは、間違いありません。

問題はアスピリンには「出血しやすくなる」という副作用があるために「リスクとベネフィットのバランス」の点から、患者さんに推奨すべきか否かの議論が医師の間で続いているだけです。

「出血しやすくなる」というのは、例えば脳出血や交通事故(頭部外傷)の時に死亡する危険性が高くなるという意味です。

日本で「正式な適応」が認可されるのは10年くらいかかるでしょう。理由は肝心の製薬会社がアスピリンの適応拡大に全く、興味が無いからです。

「ハイリスク」と宣告された患者さんの中にも「大腸癌になったらアウトだ。正式なガイドラインが出るのを何年も待てない」と考えている方もいるでしょう。

 以下の条件を満たす方で、「出血等の副作用を全て了解して、100%自己責任での服用をしたい」と考える方にアスピリン(100mg)をお渡しします。100%患者さんの自己責任で、患者さんが自ら情報を集め、自分で考え、判断していただいた方だけにお渡しします。これに関しては、お問い合わせ、御相談は一切、お受けしません

(1)当院の検査で「a-FAP,HNPCC,SPSが考えられる、ハイリスクである」と宣告された方
(2)60歳以下
(3)メタボリック症候群の傾向があり、動脈硬化のリスクが平均より高い
(4)家族歴・既往歴で脳出血などの重大な出血性病気が無い
(5)胃潰瘍など出血すると重大な事態になる病気が無い(アスピリンの重大な副作用が胃潰瘍です。高齢の方、よく胃が痛くなる方は、胃粘膜保護剤を、かかりつけの先生から処方してもらい一緒に服用した方がいいでしょう)
(6)ピロリ菌が陰性。(もし、陽性なら除菌後であること)理由は(5)だからです。ピロリ菌が不明の方は検査を勧めます
(7)何らかの持病がある方は、かかりつけの先生に服用が問題が無いかを確認をして下さい(当院へのご相談は不可です)また、
かかりつけの先生が処方していただけるなら、それがベストです
(8)その他の副作用(胃潰瘍、喘息など)等はバイエルン社の説明書をお読みください。通常は100mgで副作用は少ないのですが、個人差があります。「血が止まりにくい」「アザがよくできる」「鼻血がよく出る」などの症状が見られましたら、減量・中止をして下さい。

内視鏡検査の時は「必ず10日前から中止して下さい」。これはポリープ切除後の出血を予防するためです。
その他、何らかの手術を受ける場合も、必ず10日以上前から中止してください


お渡しするの「バイアスピリン100mg錠(腸溶剤・低用量)が500錠入った一箱(1日1錠=500日分)」です
1錠=6円なので原価が3千円です。これに事務手数料2000円を頂き、5000円で、お渡しします
大体、1〜2年分なので、内視鏡の時に次の箱を入手するというサイクルになります

御希望の方はメール等でご連絡ください。(取り寄せに10日ほど見て下さい)

 注意!!
たくさん、飲めば効果が大という訳ではありません!以前、Amazoneで500mg錠を購入し自己判断で毎日、服用されていた方がいましたが推奨できません!

副作用等でアスピリンが服用できない場合はメトホルミンという糖尿病の治療薬が第2選択になります。(詳しくは、こちらを・・・


その他、最新情報は「大腸癌最新情報」⇒「項目別リスト」⇒「アスピリン・メトホルミン」を、御読みください。