2年間で600倍に増加した(?)SPS症候群はSilent Killerか!?
大腸ポリープは大きく分けて二つに分類されます。腺腫と過形成ポリープです。過形成ポリープは癌化しない無害なもので治療せずに放置でよいというのが過去の常識でした。しかし、2013年頃から過形成ポリープが予後の悪い高悪性度の癌の元であることが解り、重視されるようになりました(詳しく・・・

過形成ポリープの重要な特徴は「平坦で正常粘膜と区別がつきにくく、腺腫と比較して非常に見落としが多い」ということです。正確な統計は無いのですが「過形成の見落とし」は「腺腫の見落とし」の10倍以上の頻度と予測します。

そして過形成ポリープが多発するSPS症候群(Serrated Polyposis Syndrome)という病態があります。SPSの方は(1)大腸癌になり易い(2)大腸以外の全身の癌になり易い(3)家族も癌が多い、癌家系である・・・という特徴があります。

2010年頃までは「SPSは非常に珍しい。」というのが世界中の常識でした。腺腫が多発する「家族性腺腫症」が古くから認識されていたのとは対照的です。

2016年以降から、「精密な観察をするとSPSが予想外に高頻度に見つかる。実は、そんなに稀ではないのではないか?と」いう報告が、相次いでいます


まずは海外の報告から
SPSという概念が最初に報告された頃は頻度は3000人に一人(0.03%)と言われました。しばらくの間、この数字が一般的な頻度・代表的な数字と見られていました。(文献
2016年にはSPSをa silent killer when undetectedと呼ぶ論文が出て,SPSの専門家が「実は見落とされている場合が多いのでは?」と警鐘を鳴らしました
2017年、欧州の共同グループは「SPSの頻度は0.8%に達する」と報告しました
2017年にはSPSよりも診断基準が緩いmultiple serrated polyps(MSP)という概念を提唱する報告がスペインからありました。MSPの癌のリスクはSPSと同等(つまり、臨床的取り扱いは同じ)であり頻度はSPSの3倍です。つまり、従来のSPSにMSPを加えた「過形成ポリープが多発する癌の高危険群」の人は、従来、考えられていた頻度の、4倍=全体の3%くらい存在するのではないか?という主張です。


次に日本の報告から
2013年 広島大学のグループは「SPSの頻度は0.014%」と報告しました
2015年、国立癌センターは「全大腸に色素散布をして超精密観察をするとSPSの頻度は8.4%になる」と報告しました

つまり、2年間で頻度が600倍になった訳です

この報告から単純に広島大学の観察が雑であり、国立癌センターの検査は完璧であると判断するのは誤りです。広島大学の報告は医師がSPSを認識しなかった頃の古い記録、実に7万人の記録を再調査した貴重なものです。日本の多くの医療機関で日常的に施行されている大腸内視鏡ではSPSの頻度は広島大学の0.014%よりも低いはずです。一方2015年の癌センターの報告はSPSを調べるために,250人に試験的に超精密な検査を行ったものであり日本の通常の医療の実情とは大きく乖離しているものです。また「頻度8.4%のSPS」は「癌が多い傾向があるが統計的に有意ではない」とあります。つまり、やや「過剰診断気味」を意味します

この貴重な報告の比較から重要な事実が解ります

(1)日常の内視鏡ではSPS症候群の大部分が見落とされている
(2)逆に、超精密な観察を行うとSPS症候群の過剰診断が起こる

       
       
   Under-diagnosed Silent Killer=深部結腸・過形成ポリープ

MSP(頻度 3%)の人は「癌の高危険群」であるとスペインの報告にはあります。MSPも本質的にはSPSとイコールと思われます

以下のような結論になります

全人口の3%の頻度で、「過形成ポリープ多発症(MSP、SPS症候群)」が見つかる。この方たちは本人、家族に大腸癌及び、それ以外の癌が多い「癌体質」の人たちである。問題は、その多くが「通常の検査で見落とされている」という事実である。腺腫多発症の方が通常検査で、見落とされることは無いが過形成は非常に見落とされやすい。更に過形成が癌化すると腺腫の癌化よりも予後が悪い事が解っている(資料)。以上を考えると、MSP,SPSが「最も危険(silent killer when undetected)」である。


参考
MSP診断基準
who had more than 10 polyps throughout the colon, of which more than 50% were serrated.

WHO criteria for SPS診断基準
(1) ≥5 serrated colon polyps proximal to the sigmoid colon with 2 or more of these being >10 mm; (2) any number of serrated polyps proximal to the sigmoid colon in an individual who has a first-degree relative with SPS; or (3) >20 serrated polyps of any size distributed throughout the colon (not all in the rectum).

タイプ1・・・
右側に大型の過形成(SSAP)が数個、多発する。SSAPが直接、癌化すると考えられている
タイプ2・・・・
左側に小型の過形成が数十、多発する。個々の過形成が直接、癌化するリスクは低いが、腸全体が腫瘍が出来易い体質であることが多く、腺腫および腺腫由来の癌が出来易い。また遺伝的にDNA修復機能の低下が見つかることもある(文献