遺伝子検査について

1度の内視鏡で10個以上のポリープが見つかる方は、「後天的な偶然の遺伝子変異」でポリープが発生したのではなくて、生まれながらにして(つまり全身の細胞が)、何らかの「腫瘍が出来易い遺伝子」を持っているだろうと考えられています。

現時点で「多発性大腸ポリープ」「大腸ポリポーシス」「遺伝性大腸癌・大腸ポリープ」の原因遺伝子として以下のような遺伝子異常が解明されています。そして、このリストは、今後も増えていき、膨大な数になるはずです。

公的な医療機関の「遺伝性癌外来」や民間の遺伝子検査ベンチャーに依頼すれば、これらの遺伝子異常の有無を検査することは可能ですし、当院の内視鏡で「ハイリスクグループ(永久Eランク)」とされた方は、これらの遺伝子のどれかに関係するタンパク質の遺伝子に何らかの異常があると思われます

しかし、現時点では遺伝子検査は推奨できません

   報告されている遺伝子異常
 a-FAP  APC(多い)及び他のWNT関連遺伝子 MYH(多い) POLE POLD1
 HNPCC ゲノム修復に関連する遺伝子= MLH1(多い) hPMS1, hPMS2, hMSH2, hMSH3, hMSH6
 SPS RNF43 他,未知の遺伝子
 FCCTXその他 BRCA2(多い 遺伝性乳癌の遺伝子), SEMA4, NTS, RASSF9, GALNT12, BMPR1A, RPS20 SMAD4  LKB1 PTEN
 今後、リストに追加されることが予想される遺伝子の候補  PIK3CA, FBXW7, TCF7L2 NRAS CTNNB1, SMAD2, FAM123B SOX9 FAM123B (WTX) ATM ARID1A ACVR2A, TGFBR2, SLC9A9 (米国TCGAプロジェクト報告より)

推奨しない理由
(1)遺伝子を調べてもメリットは少ない。「遺伝子Aに異常があれば検査Bを受ければよい。薬Cを飲めばよい。ゲノム編集で遺伝子Aを治療できる。」という有効な対策があればメリットがありますが、現状ではメリットは、ほとんどありません。例えば国立がんセンターで行っている「NCCオンコパネル(費用 患者さん負担 約50万円)」は癌の化学療法の選択などに有益ですが、前癌病変(ポリープ)の方が、この検査を受けてもメリットはありません。前癌病変(ポリープ)の方が遺伝子検査で受ける唯一のメリットは「a-FAPの方は十二指腸癌が多い」「HNPCCの方は子宮体癌が多い」という予測が可能という事実ですが、これも絶対的な物ではありません。

(2)人の遺伝子の数は3万前後と予想されていますがゲノム修復に関連する遺伝子(Genome Maintenance Gene)は、その数%=1000個以上と予想されています。(The Cell 6版)。これらを、(エピゲノム異常を含めて)完璧に調べないと何も言えません。簡易なスクリーニング検査は「異常が出た」場合は重大な意味がありますが、「異常無し」と出ても何も言えませんから、混乱を招くだけです。

(3)逆に遺伝子異常が見つかっても「患者さんと家族にレッテルが貼られ婚姻・雇用・生命保険契約などで不利益を被る」危険があります。現実的には我々の全員が何らかの「遺伝子異常」を保因しています。しかし、社会はそれを十分に理解していません

(4)これらの理由から多くの公的な医療機関の「遺伝子検査」は対象を「癌が見つかった患者さんの治療目的」に限定しており前癌病変(ポリープ)の段階では対象としていません。民間の遺伝子検査ベンチャーなら料金を払えば制約は無く、いくらでも検査をしてくれるでしょうが・・・高額なだけで科学的な信頼性に不安があります。

(5)将来、「ポリープを薬で治す」時代が来れば、治療薬選択のためにポリープがある方、全員に遺伝子検査をする時代(オーダーメイド医療)が来るでしょう。それは未来の話です