コペルニクス的革命モデルに基ずく新たな予防戦略 

単一細胞のゲノム解読技術などにより、ここ数年、「腫瘍の発生の最初のステップ」を解明する研究が進みました。従来のモデル(腺腫・癌化経路、Serrated Pathway、TSA pathway)では想像できなかった新しい概念が生まれ(コペルニクス的革命です)、新しい予防薬が研究されています

今回の記事は主に2024年に当サイトで紹介した以下の記事の「総集」となるものです

当院の記事(2024年)
(1)腺腫が腺腫を予防する(腫瘍の競争)

(2)ポリープはポリクローナル起源である(腫瘍の協力)

(3)ポリープの癌化は免疫で阻止される

(4)癌予防薬が癌の原因になる時


以下2025年6月の最新レビューを基に解説します


上記レビューより

腫瘍は発生初期には「競争」します。隣接する細胞が幹細胞化する(WNT)のを抑制する因子(NOTUM)を分泌することで「周囲の細胞が腺腫化」するのを防止します。言わば「腺腫が腺腫発生を抑制する」のです。この抑制因子(NOTUM)を抑えると・・・・・競争が無くなり「各クローンの平等・中立」な状態になります。こうすることでポリープの発生が予防されます

競争に勝ったクローンは単一(モノクローナル)ではポリープまで成長できません。異なるクローンが「協力」しあうことで「ニッチ」が形成されポリープまで成長します(ポリクローナル起源モデル)

この「ニッチ」の正体は「微小炎症」です。炎症によりポリクローナル間の協力が促進されます

腫瘍が進行すると「協力は不要」となった単一クローンがポリープを形成します(モノクローナル化)

この段階では免疫(炎症)は、かえって邪魔です。免疫抑制(チェックポイント)によりモノクローナル・ポリープが完成します


この新しいモデルから「新しい大腸癌予防薬」が研究されています。臨床応用の可能性が最も高いのは以下の3剤です

リチウム
双極性障害の治療に使われる薬であり、安全に長期使用できることが証明されている廉価な薬です。リチウムはWNTを活性化します。一見すると「腺腫発生を促進する」ように思えるのですが・・・・・逆説的な話で「競争を無くす」ことでポリープ化を防止します。

アスピリン
「ポリクローナル協力」の中心である炎症を抑えることでポリープ化を防止します。したがってアスピリンが癌予防に有効なのは「初期」です。完成したポリープに対しては免疫を抑制することで「発癌を促進」する危険性があります。アスピリンを大腸癌予防に服用する場合は、必ず「内視鏡によるポリープの完全摘出」とセットで服用すべきです。また高齢者ではアスピリンが逆に癌を促進するという逆説的な報告も、これで説明がつきます

チェックポイント阻害剤
モノクローナル・ポリープが癌化する段階の阻止に免疫が働いており、「チェックポイント阻害剤による腺腫の癌化予防」が研究されています。MSI型だけでなくMSS型にも有効です(PD1ではなくTIGIT)。問題はコストと副作用ですが、「副作用が無く(腫瘍特異的)、廉価で長期服用できる経口薬」が開発されれば革命を起こすでしょう


2019年に「薬でポリープを治す時代が来る」という記事を書きました


               ・・・・・・・・・詳しくは2020年の「ASAMET」の記事を