「大腸ポリープは同時多発的に発生する(ポリクローナル説)」はコペルニクス的革命になるか?

数学や物理学と異なり生物学・医学において「コペルニクス的革命」は滅多に起きませんが、最新のNatureに「腫瘍生物学の地動説」とも言える報告が中国からありました。

あまりにも革新的な内容で「信じられない」というのが第一印象ですが、国際的な追試で確認されれば、癌検診の根幹を揺るがす大きな衝撃になるでしょう・・・

腫瘍は遺伝子が偶然、突然変異することで発生しますが、1個の変異した細胞が起源になると信じられていました。突然変異が同時多発的に起こることは確率的に低いという単純で自然な発想からです(モノクローナル説と呼ばれます。言わば「天動説」です。)

SMALTという「細胞系譜を追跡する」最新技術を駆使し、この「天動説」が間違いであることを世界で初めて解明したというのが今回の報告です。

ところで・・・・猿から人へ進化した時も「偶然の突然変異」で進化した訳ですが、同時多発的にオスとメスが誕生しなければヒトの再生産は行わわれませんから、最初にアダムとイブが同時に発生したはずだというのが「ポリクローナル説」です。

人のオスとメスが協力するように、細胞も「違う細胞同士は生存を助け合う」「完全に同じ細胞(クローン)同士は助け合わない」という性質がこの報告でも観察されました(おそらく腫瘍の自然発生を防止する基本的な性質なのでしょう)

マウスの大腸ポリープ(炎症で自然誘発したものと遺伝子を改変して作製した人工的腫瘍の2タイプ)と人の大腸ポリープを解析したところ・・・・初期は「ポリクローナル」であり、アダムとイブのように違う系譜の細胞同士が協力し合い成長していくということが解りました。
やがて悪性度を増した優位クローンが出現すると、もはや「他との協力」には依存せずに自立します。こうなると「モノクローナル」となります。今まで、我々はこのような進行した腫瘍(=モノクローナル)を観察していた訳です。

腺腫(代表的な大腸ポリープ)はAPC遺伝子の変異で発生します。同時多発的に複数(約10個前後)の細胞にAPC遺伝子の変異が起きることが「大腸ポリープの最初の起源」になります。

なぜ、そんな偶然が起きるか?
これは「APC遺伝子を変異させるような局所的な環境」があるからです(炎症や発癌性・腸内細菌、あるいは発癌性ウイルスなど)。このような仮説モデルは「フイールド発癌」と呼ばれ以前からありました。(下記)

なぜ、超初期の段階ではモノクローナルな腫瘍が見つからないのでしょう?
おそらくはフィールドが無い状態で、偶然に1個の細胞にAPC遺伝子変異が起きても・・・その細胞は消滅し、ポリープまで成長できないのでしょう。

以前の記事
で「変異DNAを検出するバイオマーカー検査」はポリープの無い人でも多くが陽性になり「感度が良すぎて実用的ではない」という問題点を指摘しましたが、その理由もこれで説明できます。血液で変異DNAや単一腫瘍細胞(CTC細胞)を検出するバイオマーカー検査は「根幹となる理論」に重大な欠陥があることが指摘された訳です・・・・・



従来の「モノクローナル」モデル2021年記事より)



今回、新たに提唱された「ポリクローナル」モデル


最近の中国の科学研究の躍進はすさまじく「米国を大きく抜いた」と評価されています(⇒Nature Index)
しかし中国の研究は「応用面、実用的な研究にシフト」しており基礎研究で革新的なものは、まだまだ米国に負けている、と言われていました。
しかし、今回は中国が「コペルニクス的な研究」を発表しました。さて・・・欧米の研究者の反応はいかに?



大腸のフイールド発癌を主張している論文
Further Study on Field Cancerization in the Human Colon(2022)
branching crypts lined by normal epithelium (BCNE)という概念を主張.

Field cancerization in the colon: a role for aberrant DNA methylation?

Sporadic Colorectal Tubular Adenomas Thrive in Symbiosis With Underlying Nondysplastic Branching Crypts