日本でもASAMETの治験が始まった!

現在、大腸癌予防効果が科学的に最も多く証明されているのはアスピリンで、2番目がメトホルミン(糖尿病治療薬)です。メトホルミンの予防効果は横浜市大が2016年に報告しました。

当院では2018年より、「大腸癌ハイリスクの方」を対象にアスピリンの処方を開始しました(詳細)。

メトホルミンについても「対象者を強く限定」して2021年より開始します(詳細)。

以前の記事で紹介しましたが、現在、この二つの薬の併用(アスピリン(ASA)+メトホルミン(MET)=ASAMET)の臨床試験が海外で進行中です

そして日本では横浜市大が、ASAMETの治験を開始しました(文献)。

海外のASAMETでは、薬の効果を「NFκB」で測定します。これにより「簡易で早い効果判定」が可能になります。対して横浜市大の治験では「ACF」という微少ポリープの数で効果を判定します。「NFκB」に比べると時間と手間のかかる方法ですが、「より正確で現実的、より臨床的」な方法です。

アスピリン(NSAID)がACFを予防するという報告は多く、また横浜市大はメトホルミンがACFを予防することも報告しています.。培養細胞の実験では、アスピリンとメトホルミンには「著明な相乗効果」が報告されています(⇒以前の記事)。ですから、相乗効果は、ほぼ確実と予想されますが、その程度がどれほどか?が関心の対象になります。



治験を指導されている中島先生は、以前、東大・第三内科に所属された方で、個人的にも旧知ですが、分子生物学に非常に詳しい先生ですので、今回の研究の結果に強く期待しています。

 何故、ASAMETが有望な癌予防薬なのか?
 「癌は予防できる」という意見
「癌は細胞分裂の際のDNA複製エラーに起因するのだから予防はできない」という意見があります。最も権威のある分子生物学の教科書 The Cellは移民のデータから「いや、多くの癌は予防可能である」と最終章で述べています(第20章;P1128)。
アフリカから米国に移住した黒人は「アフリカ型癌(バーキットリンパ腫など)」が減り、「米国型癌(大腸癌・乳癌・前立腺癌)」が増えます。これから「環境因子が大きい」=「予防可能」であるという主張です

「開発途上国型癌」と「先進国型癌」
「開発途上国型癌」の多くが感染症が原因です。バーキットリンパ腫、咽頭癌(EBウイルス)、胃癌(ピロリ菌)、子宮頸癌(HPVウイルス)、肝臓癌(肝炎ウイルス)などです。
では「先進国型癌(大腸癌・乳癌・前立腺癌)」の原因は何でしょう?
The Cellは「産業革命後に先進国で癌が増加したのは煙草と栄養過剰が2大原因である」と結論しています。これが分子生物学の導き出した最終結論なのです。まず禁煙が癌予防の基本になります。

慢性炎症と糖代謝を抑えて先進国型癌を予防する、という理論
更に「慢性炎症」が発癌の重要な因子として注目されてきました。先進国では寿命が伸び、先進国型癌は高齢者に多いですが、老化は慢性炎症を起こし(⇒老化と癌)癌の原因になります。また、長寿は感染症に勝った証であり、これは免疫過剰(慢性炎症)を意味します(⇒免疫と癌)。また栄養過剰が癌の原因になるのも「mTORを介し細胞寿命を伸ばすという説」と「脂肪が慢性炎症を起こす」という説があります(⇒栄養過剰と癌)。

これらの理論から「メトホルミンで糖代謝(mTOR)を抑え」「アスピリンで慢性炎症を抑え」ることが先進国型癌の予防になる、という理論が確立されました。近年の分子生物学の集大成ともいえます。