腺腫と過形成ポリープ(鋸歯状病変、SSAP)の本質的な違い


今回は純粋に基礎医学の話になります。「科学読み物」としてお読みください。

大腸ポリープは、大きく2種類に分けられます。腺腫と過形成ポリープ(鋸歯状病変 SSAP)です。一方、大腸癌は4つのタイプがあり(CMS1〜4)、各々が、どのタイプのポリープに由来するか、解明が進んでいます(⇒大腸癌の起源

   CMS1  CMS2  CMS3  CMS4
 遺伝子変化  BRAF
CIMP,MSI
 SCNA
WNT/MYC
RAS  TGFβ
SCNA
 予後  悪い  良い 非常に良い  非常に悪い 
頻度  14%  37%  13%  23% 
 起源  右側の
過形成ポリープ
 腺腫 不明  大きな過形成 
ポリープ=SSAP

では「腺腫と過形成ポリープは何が違うのか?」、この根本的な疑問の答えは謎ですが、非常に興味深い仮説が2020年に報告されました。

大腸ポリープの発生で最も重要なのが「WNTの異常」です。幹細胞化を起こす腸の腫瘍発生の鍵です(⇒ポリープは老化するか?

腺腫と過形成ポリープでは「WNTが異常になるタイミングが違う(前者は最初、後者は最後)」だけで、本質的な違いはありません(⇒両者は最後は同じになる




腺腫は「胎児化(最初にWNTが異常)」で発生し、過形成ポリープは老化し最後に「胎児化(WNTが異常)」して若返り癌になる訳です(⇒老化と大腸癌

なぜ過形成ポリープの場合、WNTの異常が遅れる(中々起きない)か?が疑問だった訳なのですが・・

その理由は仮説では以下のように説明しています。
下図のように過形成ポリープは「シグナルのレベルで異常」が起こります。この場合は「負のフィードバック」が働くために異常が中和されます。このフィードバックも壊れて初めてWNTが異常になるので時間がかかる訳です。一方、腺腫は「下流」で異常になるために「一発で」WNTが異常になります。

どうして、このうような違いが起こるかは腫瘍の発生の場所(腺腫は陰窩底部、過形成は異常陰窩、または陰窩でない部分から発生する)による、と推定されています。




この違いは臨床的に重要です。「シグナル・レベルの異常」は阻害剤(抗体、分子標的薬)で治療し易いのですが「下流での異常」は薬剤が細胞膜を通過する必要があり阻害剤で抑えるのが難しいからです

(専門的)臨床への応用
上記論文では正確には「腺腫は全てLigand-independent」「TSALはLigand-dependentと,Ligand-independentが半々」「SSAPは、ほとんどが Ligand-dependent」とのこと。
これを臨床の現場で簡単に区別する手段として「Axin2のqRT-PCR」が有効(Axin2の発現が高ければLigand-dependentと言える)とのこと
但し、上がっていない場合はLigand-independentの場合とTwo-HItによるものかを区別できない



両ポリープ、その他の相違点


過形成ポリープはタバコで癌化し、腺腫は肥満により癌化する
肥満(栄養過剰)とタバコは癌の2大原因ですが、タバコはCIMPという現象を起こし肥満はPI3Kの亢進を起こします。上記の図から「肥満は腺腫の癌化と、タバコは過形成ポリープの癌化と、深い関係がある(文献)」という理論が導かれます