大腸癌の原因もパンデミックだった!それは遺伝子が誕生する前の太古の名残だった


今まで大腸癌と深い関係が疑われていたのはフゾバクテリア菌でした。しかし・・・複数の研究が「フゾバクテリアは発癌物質(=DNAを変異させる物質)を産生しない」と結論付けています。免疫細胞などに作用して「腫瘍の出来易い環境を作っているだけ(いわば、重要な脇役)」というのが結論です(2019年Natureの総説

では「大腸癌の真犯人(発癌物質)」は何でしょう?

化学変化した胆汁、化学変化した動物性脂肪、化学変化したアルコール(アルデヒド)、炎症で発生する活性酸素、細菌の作る毒素・・・・・など、多くの「変異原性物質」が候補になりました。細菌の作る毒素はCDTやコリバクチンなど数種類の候補が見つかりました(参考)。しかし「決定的な証拠」がありませんでした。

変異スペクトラム解析(Mutational Signature)という手法で「大腸菌の作る毒素(コリバクチン)が大腸癌の遺伝子変異の犯人である証拠をつかんだ」という報告が二つありました(下図)

まず独・北欧・スペインのグループが2019年のpreprint を出し、オランダ・米・英のグループが2020年のNatureに正式論文を報告しました。


全ての大腸癌から「コリバクチン特異的遺伝子変異が検出された」訳では無く、「1部の大腸癌の原因がコリバクチンである確実な証拠が見つかった」という意味です。他の「変異原性物質」候補に対しても、今後、同様の変異スペクトラム解析が行われるでしょう。

コリバクチンについて解っていること(2018年 Revew
  1. 必ずしも大腸菌だけにある訳でなく、様々な細菌に見つかる(遺伝子の水平伝搬という現象)。しかし、人体の腸で最も量が多いのが大腸菌なので、結果として「大腸菌のコリバクチン」が最も問題になる
  2. コリバクチンを作る遺伝子(PKS)は多数の遺伝子が集団になった「かたまり」である。水平伝搬する遺伝子集団は病原性アイランド(島)と呼ばれます
  3. 健康人の大腸菌を調べると、約3割PKSを持っている。それも新生児から保有しており分娩時に母親から「感染するようだ。
  4. 大腸菌はA〜Fの亜型に分類されるが、この内、B2タイプと呼ばれる菌株がpksの保有率が高い。また食中毒を起こし易い。
  5. 欧米の食生活(牛肉・高脂肪食)でB2型の割合が増えるという報告がある
  6. 欧米人のデータでは「大腸癌患者では6割がPKS(+)、正常コントロールは2割がPKS(+)であり、大腸癌の方の腸内細菌はPKS(+)が多い
  7. 一方、日本人では大腸癌の有無に関わらず4割の人がPKS(+)ており、日本ではPKSが広く蔓延しているようだ。(2017年報告 2020年報告 )日本が世界的に大腸癌発生率が高い理由は不明でしたがPKS(+)大腸菌の蔓延が答えなのかもしれません


実体がつかめない幽霊のような存在
この物質は非常に不安定であるために正確な分子構造がまだ確定していません。便中のコリバクチンの測定が大腸癌の危険度予測になるのですが測定法も開発されていません。研究が遅れている理由は「不安定性」以外に、「遺伝子から作られる」のではなくて、直接に「タンパク質がタンパク質を作る」行程で産生されるからです。分子生物学で主力となる遺伝子解析アプローチができない訳です。
コリバクチンは太古の「プロテイン・ワールド」の遺産
通常のタンパク質は遺伝子(mRNA⇒リボソーム)から作られます、コリバクチンのように遺伝子から作られないタンパク質は非リボソームペプチド、NRP=Nonribosomal peptideと呼ばれます。
科学者達が「生命の起源」として考えているのが「RNAワールド」と「プロテイン・ワールド」仮説です。非リボソームペプチド(NRP)は太古の「プロテイン・ワールド」の遺産と考えられており、人のような高等生物には見られず原始的な細菌にのみ見られる現象です。他にも「細菌から見つかった抗生物質」など非リボソームペプチドが、いくつかあります。


パンデミックの原因となる「病原性アイランド(島)」
前述したように大腸菌だけにある訳でなく、遺伝子の水平伝搬により様々な細菌に見つかります。つまり、「大腸癌の犯人は大腸菌ではなくPKS遺伝子である」ということです。大腸菌が腸内で最も多いので「大腸菌のPKS」が、重要な訳ですが、「PKS陽性のクレブシエラ菌による敗血症」がアジア流行していると中国の研究者が報告しています(文献)。PKSのような遺伝子集団は「病原性アイランド(島)」と呼ばれます。サルモネラ食中毒やコレラなど多くのパンデミックが病原性アイランドが原因です。

詰まる所・・・・先進国で「流行」している大腸癌は「パンデミック」だった!ということです。

なぜ遺伝子島は伝染病のように伝搬するのか?
これは性を持たない細菌に特異的に見られる現象です。細菌は「菌種の壁」を超えて頻繁に遺伝子の一部を交換し合っているのです(下図)


「病原性アイランド」の概念図 「The Cell」より引用

新型コロナウイルスに感染した方の多くが軽症であるように、PKS島(+)細菌も感染すれば必ず大腸癌になる訳では無く「癌体質の方が感染すると大腸癌になる」と考えられます。これは感染すれば、全員が発症するコレラやチフスと大きな相違点です。

PKS島の感染源は?感染ルートは?
これは全く未知ですが・・・上記のように「食生活の欧米化」で増えるというデータがあるので「牛肉」が何らかの関与をしていると思います。ハウゼン博士は「生の牛肉(レアのステーキ)・牛乳由来の病原体が大腸癌の犯人」と主張しています(詳しく・・・)。腸内細菌は分娩時に母から新生児に「移植」されることも解っています(文献)。以上から現時点では以下のような仮説が考えられるかと思います。



     
ハウゼン博士

除菌やワクチンは可能か?
ピロリ菌除菌で胃癌を予防するように「大腸菌を除菌する」ことは不可能です。また、ワクチン開発も「まず不可能」です。駆除する手段として「ファージ(細菌に感染するウイルス)の使用」が考えられますが、まだ研究段階です。
コリバクチン産生阻害剤の候補となる小分子を二つ見つけたという報告が2016年にありました。しかし、その後に臨床試験まで進んだという報告はありません。現時点ではホルデマネラ菌のようなプロバイオティクスか糞便移植が有望な選択肢ではないかと思います。


30年前、ハウゼン博士は「子宮癌の原因はウイルスだ」と主張し、変人扱いされましたが、その後、HPVを発見しノーベル賞を受賞しました。誰もが認める「最強の癌ウイルス・ハンター」です。次に博士は多くの疫学的調査から「牛肉内のプラスミドが大腸癌の原因」と結論し、その犯人を追って来ました。プラスミドとは「複製する小さなウイルス様のDNA」のことで、実は・・・・「病原性アイランド」と深い関係があります(上図)。

次回は、
「腸内細菌と大腸癌(3) ハウゼン博士のプラスミド仮説」です