2019年Nature のフゾバクテリアに関するレビューの要約

  1. 健康な人の口腔内の正常細菌叢の一部と考えられており、本来は病原菌には分類されていない。菌体表面に接着分子を多く持ち、歯周プラーク(バイオフイルム)形成の中心的役割を持つ。しかし、通常は、このバイオフィルムは口腔内で感染防御に役立っている。つまり、通常は「有益な共生菌」と見なされている。
  2. しかし口腔内粘膜組織内に侵入すると炎症を起こし、歯周病の原因になる。更にマウスの実験では口腔内の癌(扁平上皮癌)の発生を促進することも2015年に報告されている
  3. 歯周病以外に肺炎、心内膜炎、尿路感染症などの幅広い、感染症で検出されるが、病因として重要と考えられているのは、大腸癌と子宮内感染(流産)の二つである。早産時の羊水中にフゾバクテリアが高率で検出される。しかし逆にフゾバクテリアは子宮内の正常細菌叢の一部で妊娠の維持に有益な役割を持つという報告もある。フゾバクテリアは通常は有益だが、状況によって病原菌になる「日和見感染菌」であるというのが現在の定説。
  4. 腸管におけるフゾバクテリアの研究は(1)まず虫垂炎で高率に検出されるという報告(2)炎症性腸疾患で高率に検出されるという報告、があり「炎症・感染との関係」は以前から広く認識されていた。しかし2012年に大腸癌の癌組織内に高率に検出されるという報告があり(文献 文献)、世界中の専門家を驚かせた。
  5. その後、多くの追試が同様の結果を報告しており、大腸癌の原因なのか結果なのか?は未解決であるが「大腸癌組織内にはフゾバクテリアが多量に存在する」ことは確実というのが現在の定説。
  6. 更には口腔内癌、食道癌、胃癌、子宮癌でも検出されるという報告があるが少数報告である
  7. 大腸癌組織を顕微鏡で調べるとフゾバクテリアが他の細菌と共同でバイオフィルムを作り口腔内プラークと似た状況が観察される。
  8. 大腸癌組織内フゾバクテリアの量が多いと「抗癌剤に効きにくく」「再発し易い」という報告が2016年にあり、フゾバクテリアは単なる「結果・随伴現象」ではなく「原因・促進因子」と考える意見が多数になった
  9. フゾバクテリアが大腸癌の早期から癌組織内に存在すること、大腸癌細胞は特殊な糖鎖を発現するためフゾバクテリアが吸着し易い性質であることが解明されたが、フゾバクテリアが「発癌因子(例えば 大腸菌やバクテロイデスの作るCDTやColibactin)」を産生しているか?については多くの研究で否定的である。炎症を起こし免疫系に作用することで腫瘍に促進的な微小環境を作るのだろうという間接的な役割が現在の多数の意見。
  10. マウスを使った発癌実験で「口腔内投与されたフゾバクテリアが大腸癌発生を促進すること」「その効果は免疫細胞を介していること」が2009年に報告された
  11. 注目されているのがTIGITタンパクである(文献 文献)。TIGITはナチュラル・キラー細胞に発現している免疫チェックポイントタンパクでPD1(オブジーボのターゲットタンパク)やCTLA4に次ぐ3番目の候補として注目されている。フゾバクテリアが、このTIGITに作用しナチュラル・キラー細胞を抑制するというモデルである。
  12. 結論として「便中フゾバクテリア」または「癌組織内のフゾバクテリア」を調べることが診断に有用であるというのが多数の意見であるが、フゾバクテリアの除菌が治療効果があるか?は意見が分かれている。除菌(抗生物質)によりフゾバクテリアの以外の腸内細菌も大きく変化し、その中には腫瘍促進的な菌、腫瘍抑制的な菌の両方があるはずなので、効果が予測できないからである。フゾバクテリア単独を除菌できる方法なら「臨床試験をする価値は有る」と思われる