癌の早期発見の効果が無いことが遺伝性大腸癌で確認された
超早期転移理論が正しいなら、大腸癌との闘いでは「10ミリが勝負を決めるライン」ということになります。転移するタイプは10ミリで転移し、10ミリで転移しなければ、その後も転移しないからです。
一方、「遺伝性大腸癌」の方は、通常の非・遺伝性大腸癌よりも「腫瘍の時計」が早く進みます。
これは「遺伝子が異なる特殊なタイプの癌」だからではありません。遺伝子が不安定(変異しやすい)だからです(HNPCC状態)。
大腸癌の発生のカギとなる「5つのシステム異常」が短期間で蓄積されるからで、異常となる内容は非・遺伝性と変わりません。
非・遺伝性大腸癌で10ミリが勝負ラインなら、理論的に遺伝性の場合は、もっと小さなサイズが勝負ラインになります。もし検診で発見できない微小サイズが勝負ラインなら検診(早期発見)の効果は無いということになります
北欧は以前から国民全体の遺伝子情報をデータベース化するという事業に力をいれており、他国には無い膨大な遺伝性大腸癌のデータ解析が行われています。200人以上の遺伝性大腸癌(HNPCC)の長期経過を解析した結果、検診(内視鏡)の間隔が「1年毎」と「3年毎」で発見される大腸癌のステージ、予後に差が見られなかったと報告されました(文献1、文献2)
どうして、このような結果になったのか?報告者も「全く解らない。検診よりも患者の免疫力の方が、重大な影響を持つのかもしれない」と推測を述べています。DNAが変異しやすいために腫瘍が生じやすいが、同時に腫瘍が自然消滅し易い(免疫による排除、DNAエラーによるアポトーシス)、という仮説モデルです。
遺伝性の方は「大腸癌になり易い」のですが「比較的、癌の予後が良い」ことも解っています。遺伝子が不安定(変異しやすい)という性質は「癌を生み出しやすい」訳ですが、同時に癌細胞にとっても「重大なアキレス腱」であり、抗癌剤(特に免疫賦活剤)が効きやすいのです。(遺伝子変異が大量に蓄積されると抗原性が高くなるからです。またPARP阻害剤と言うアキレス腱を直接、攻める薬剤も開発されています)
遺伝性大腸癌の方に現時点で言えるアドバイスをまとめると以下のようになるでしょう
(1)検診は大事だが、これを過剰に信用すべきではない(検診で癌が増える可能性すらある)。タバコなどの発癌物質、ストレスを避け、体力をつけて免疫力を高める方が検診よりも有効かもしれない
(2)微小なポリープは見つかっても放置(経過観察)とされることが多いが遺伝性大腸癌の方の微小病変は絶対に放置すべきではない
(3)それでも遺伝性の方は「内視鏡後・大腸癌」の危険性が高いです。しかし癌が見つかっても絶望する必要は無く、根治の可能性は十分にあります。