過形成ポリープ(SSAP)の切除で「右側大腸癌」は減ったか?


この話題は当サイトでも、繰り返し出てきますが(詳しく)、大腸内視鏡の専門家にとって今、最も切実な話題です

大腸ポリープは大きく分けて二つに分類されます。腺腫と過形成ポリープです。大腸癌は腺腫から発生する、過形成ポリープは癌化しない無害なもので治療せずに放置でよいというのが過去の常識でした。

しかし「大腸内視鏡を定期的に受けた人にも大腸癌が発症する」という事実が問題視され「急速癌(Interval Cancer)」の遺伝子解析が行われました。

そして・・・・「急速癌」は実は過形成ポリープ由来であったという衝撃的な事実が明らかになりました。このタイプは、右側に多く、早期に転移し悪性度が、高いということも明らかになりました。




SSAPの「問題点・論点」を整理しますと
1:米国では大腸内視鏡(+ポリープ切除)により大腸癌の発生率が著明に減少した
2:しかし、減少したのは「左側の大腸癌」で「右側の大腸癌」は期待されたほど減少しなかった。一時は欧州では「大腸内視鏡は右側には無効。S字結腸まで検査すればいい」という意見まで出た
3:しかも「右側の大腸癌」は「左側」よりも悪性度の高い予後の悪いタイプが多い
4:結果、「大腸癌の死亡率」は期待されたほど減少しなかった
5:この理由として右側の過形成ポリープ(SSAP)が内視鏡で見落とされ易いという事実が注目された
6:更に右側の過形成ポリープ(SSAP)は予後の悪い癌になることが遺伝子解析で解明された
7:専門家は右側の過形成ポリープ(SSAP)を熱心に探し、切除するようになった



そして、今、専門家が関心を持っているのは・・・
医師たちが右側の過形成ポリープ(SSAP)を切除することで、「右側の大腸癌」は著明に減少したのか?
という問いです。

この問いは・・・・「現代の分子生物学は大腸癌に勝利したのか?」と、言い換えてもいいでしょう

現時点で、この問題を調査した報告は2016年の米国の報告1編のみです。

医師がSSAPを意識しなかった2005年と、医師がSSAPを意識するようになった2014年で「右側大腸癌の頻度」は変化したか?を調査しました

結果は・・・

残念ながら「右側大腸癌の頻度」は減少していない(変化していない)という結果でした。







詳しく
Field Cancerizationとは腫瘍の周囲の正常粘膜に腫瘍と同じ遺伝子異常が見られることで腫瘍が「点ではなく面で発生する」という概念です。以前より過形成ポリープは腺腫に比べて「点でなく面で発生する」傾向があると考えられてきました。典型的なのは直腸の過形成ポリープで、多くの場合、広範囲に多発します。また、直腸以外の過形成も多発しやすくSPS症候群、MSP症候群という概念が出ています()。さらに遺伝子解析でも過形成の周囲の正常粘膜にDNAのメチル化異常が広範囲に検出されるという報告もあります。また過形成ポリープ(SSAP)の内視鏡切除後の再発は腺腫を切除した場合よりも圧倒的に多いことも報告されています。これらを総合しますと過形成ポリープ(SSAP)に対してはポリープ切除という「点の治療」だけではなくライフスタイルの改善(特に禁煙と運動)や予防薬服用(アスピリンやメトホルミン)などの「面の治療」が不可欠なのではないか?という意見が出てきている訳です。実は、このような話は口腔、咽頭、食道の「過形成から発生する癌(扁平上皮癌)」では昔から言われてきた話なのですが、大腸の過形成病変にも適応されるのかもしれない・・という訳です。




下のイラストはNature Reviews Cancer volume 11, pages 9–22 (2011)からの引用です。Field Cancerizationが解りやすく説明されています