出生コホート研究によって解った大腸癌の新しい疫学
文献 Birth Cohort Colorectal Cancer (CRC): Implications for Research and Practice Changing epidemiology of colorectal cancer — birth cohort effects and emerging risk factors

当サイトで何度か取り上げましたが最近「若年性大腸癌の増加」が世界的な話題になっています(2019年記事 2020年記事 2021年記事)。
当初は大腸癌検診が若い世代に普及したことで「見かけ上の増加」と思われたのですが、統計解析から「検診の普及」が原因ではなく「実数が確かに増加している」ことが確認されました(2022年文献)。

この「新型・大腸癌」は遺伝子変異が古典型と異なり(つまり、違う疾患という意味です⇒2021年記事)、危険因子も異なります(⇒2020年記事)



大人になってからの発癌物質への暴露では「若年性大腸癌の増加」を説明できないことから、研究者達は「幼少期の発癌物質への暴露」に注目するようになりました。
そして「出生した年代ごとに癌のリスクを調べる」という研究=「出生コホート研究」が精力的に行われ、統計解析により以下のような驚くべき事実が解りました。
「出生した年によって大腸癌のリスクが3~5倍以上異なり、1960年頃までは逐年減少傾向だったのが1960年以降から急増している」のです。しかも「悪性度の高い大腸癌が増えている」ことも解りました。


                  上記文献より

1960年以降に増加している幼少期に暴露する発癌物質は何か?
現在、研究者たちは精力的に犯人捜しを行っています(このような研究はエクスポソームと呼ばれます)。以下のような危険因子が指摘されています。
 若年性大腸癌を
促進する可能性有り
 小児肥満、小児糖尿病、高脂血症、小児のアルコール・たばこ使用、運動不足
高脂肪乳製品、加工肉、高糖飲料、低繊維、超加工食品硝酸塩、合成染料、高果糖コーンシロップ、などの西洋食
 若年性大腸癌を
予防する可能性有り
 魚、B-カロチン、ビタミンC、葉酸、ビタミンE、アスピリン、野菜、果物の摂取
しかし、これらの危険因子は「相関関係は無いか非常に小さい」「1960年以降増えている訳ではない」という反論も多く、真犯人の同定には至っていません。

研究者たちは1960年代以降に導入された環境化学物質に注目しています。
その一つがPFASと呼ばれる人工のフッ素化合物で、分解されないことから「永遠の化学物質」と揶揄されています。身近には「焦げ付かないフライパンのコーテング剤」として広く使われているものです。

PFASは若年性大腸癌の「容疑者の一人」に過ぎず、真犯人と決まった訳ではありません。しかし、現在、世界中でPFASを規制する動きが盛んです。今、我々にできることは・・・乳幼児には極力、人工化学物質を避ける。テクノロジーの進歩を安易に信用しないという努力しかありません。