文献

Clinicopathological and Molecular Characteristics of Colorectal Signet Ring Cell Carcinoma: A Review

Clinicopathological and Molecular Features of Colorectal Cancer Patients With Mucinous and Non-Mucinous Adenocarcinoma

Mucinous adenocarcinoma: A unique clinicopathological subtype in colorectal cancer


Signet ring cell colorectal carcinoma: a distinct subset of mucin-poor microsatellite-stable signet ring cell carcinoma associated with dismal prognosis

Signet ring cell colorectal cancer: genomic insights into a rare subpopulation of colorectal adenocarcinoma

Molecular profiling of signet ring cell colorectal cancer provides a strong rationale for genomic targeted and immune checkpoint inhibitor therapies



高悪性度大腸癌(粘液癌、低分化癌、印鑑細胞癌)の起源


粘液癌

Mucinous adenocarcinoma: A unique clinicopathological subtype in colorectal cancer
The prognosis of patients with colorectal MAC remains controversial, which may be attributed to the poor prognosis of rectal MAC, while there is no significant difference in the prognosis of colonic MAC and NMAC

genetic origin of colorectal MAC is mainly related to the serrated pathway of CRC, namely the BRAF, MSI, and CIMP pathways, 

Tumour infiltrating lymphocyte status is superior to histological grade, DNA mismatch repair and BRAF mutation for prognosis of colorectal adenocarcinomas with mucinous differentiation

mucinous tumours are more common in the proximal colon and exhibit specific molecular features including DNA mismatch repair deficiency (dMMR) [8,9,10,11,12,13,14,15,16], BRAF mutation [1013,14,15,16] and a high-frequency of CpG island methylator phenotype (CIMP-high) [101316]. Mucinous CRC has further been negatively associated with p53 overexpression

予後は良い?悪い?も結論なし
While some studies have reported that mucinous tumours have a worse prognosis than non-mucinous tumours [26121923], others have found no difference

Histologic grading of mucinous CRC is challenging. Conventionally,
colorectal adenocarcinoma is graded based on the degree of glandular differentiation, with cases exhibiting ?50% gland formation being considered as high grade

World Health Organisation (WHO) 4th Edition guidelines (2010) recommended that mucinous CRCs should instead be graded based on MMR status, with pMMR tumours considered as high grade 
mucでは「MMRが正常」=「High Grade」に」になる???

次のガイドラインでは「削除」されて、graded based on the degree of glandular differentiationに、戻った

High density of tumour infiltrating lymphocytes (TILs) as determined by histopathological examination has been associated with lower rates of recurrence and longer patient survival in multiple studies


The genomic landscape of carcinomas with mucinous differentiation




低分化癌(Por)の遺伝子変化
PorはMSIの割合が高い。しかし、MSI癌は予後が良い。この矛盾は?
PorでMSIは予後良好、MSS Porは予後不良らしい(2007年文献

Por(HG-CRC)をMSIとMSSで分類するという報告は2021年にもある
The frequency of MMRd in our series of HG-CRCs was 72.5%

ARID1A mutation and ARID1A protein expression loss in CRC patients was approximately 12–13% and was significantly associated with poorly differentiated grade and advanced tumor depth

 「予後の良い低分化癌=髄様癌」の概念が1997年に確立された

腸重積を契機に発見された上行結腸髄様癌の1例 (jst.go.jp)
大腸髄様癌はかつて低分化腺癌に含まれていたが, 以前より低分化腺癌の中に特異な臨床病理像を呈し, 比較的予後良好である腫瘍の存在は指摘されていた. 1997年にRuschoffらによって,そのような腫瘍を髄 様癌と記載されたことに始まる2).その頻度は0.05- 0.08%との報告もあるが3),これまで低分化腺癌とし て扱われていたものにも含まれている可能性は否定で きず,明確な頻度は不明である.また,80歳以上の高 齢者に限定すると,右側結腸に発生する大腸低分化腺 癌のうち 3 分の 2 は髄様癌であるとの報告も存在す る4).病理学的には,腺管形成に乏しく,索状,髄様 増殖を示し,腫瘍内部や辺縁部にリンパ球・好中球を 主体とする炎症性細胞浸潤が高頻度に見られる.また, 免疫染色ではMLH-1やCDX-2が欠損するのが特徴と されている4)

発見時には既に漿膜面に浸潤している症 例が多いが,リンパ節転移を認めない症例が半数以上
比較的予後は良好といわれている3).占拠部 位は主に右側結腸であり,盲腸・上行結腸で全体の約 80%を占めている


S状結腸に発生した大腸髄様癌の1例 (jst.go.jp)
低分化腺癌の定義は,管腔形成が乏しいもの,あ るいは腺管形成が陰性でも細胞内粘液が陽性のもの とされ2),一般的に悪性度は高く,予後不良とされて いた.しかしながら 1960 年頃から低分化腺癌の一部 に特異な臨床病理像を呈し,比較的予後良好である 腫瘍の存在が指摘され始めた3-6).その一亜型が髄様 癌であり,1997 年に Ruschoff らにより medullary carcinoma と記載したことに始まり7),

80 歳以上の高齢女 性においては,その 90%以上が髄様癌であるとされ る

tumor-infiltrating lymphocyte と称される T リンパ球が腫瘍 辺縁部ないしは内部に,びまん性に浸潤する

髄様癌は一様な腫瘍ではなく,管腔形成を示す 分化型腺癌,粘液産生,印環細胞癌様腫瘍細胞,胞 体が rhabdoid feature を示す腫瘍細胞などが併存す る.特に分化型腺癌成分の併存は多くみられるが, これらは前駆病変の残存や腫瘍の一部の領域に分 化・進展が起きたことによると思われる1



名称の変更 2019年WHO 低分化癌(Por poorly differentiated)⇒High Grade CRC


悪名高いスキルス胃癌は別名「印鑑細胞癌」と言います。稀ですが大腸にも印鑑細胞癌が発生します。極めて悪性度が高い物であり、その発生起源は「最後の重要なミステリー」と言えます。

印鑑細胞癌とは何か?



印鑑細胞癌の一部は腺腫が起源ですが、対策は通常の腺癌と同じです
腺腫から印鑑細胞癌が発生した例が報告されており()、「腺腫⇒印鑑細胞癌」のルートは確実に存在します(2016年文献)。また通常の腺癌の一部に印鑑細胞癌が混在することもあります。このような混合癌の予後は純粋な印鑑細胞癌と同じです(2019年文献)。これは内分泌癌のグループ1と同じ機序で、腺癌に遺伝子異常が追加され印鑑細胞癌になると思われます。このタイプへの内視鏡検診での対策は通常の大腸癌と同じ(腺腫を検出し除去する)ですので検診の上では特別な問題は、ありません。



上記とは異なり、腺腫・腺癌が併存せずに正常粘膜からいきなり発生するように見える印鑑細胞癌があります。起源が謎で内視鏡検診で特別な対策が必要なのは、このような「非・腺腫型」です。

以下、「非・腺腫型」の印鑑細胞癌について述べます。




1983年に日本の医師が「非・腺腫型の印鑑細胞癌」を初めて報告し世界を驚かせました()。残念ながら古い論文で写真が無いのですが、同様の報告が、内視鏡解像度の向上で最近は多くなりました(下写真)。境界が不明瞭で炎症なのか過形成ポリープなのか区別が困難です。
 
 韓国からの報告(場所は盲腸)

     
    秋田赤十字病院からの報告 


大腸癌は遺伝子解析により4タイプに分けられます。そして、最近は「どのポリープが、どの癌の起源か?」という研究が重視されています(⇒大腸癌の起源)。では、印鑑細胞癌の起源は、どのようなポリープなのでしょうか?これが内視鏡検診では重要な問題です。

   CMS1  CMS2  CMS3  CMS4
 遺伝子変化  BRAF
CIMP,MSI
 SCNA
WNT/MYC
RAS  TGFβ
SCNA
 予後  悪い  良い 非常に良い  非常に悪い 
頻度  14%  37%  13%  23% 
 起源  右側の
過形成ポリープ
 腺腫 不明  SSAP???

結論を先に言いますと・・・
 おそらく印鑑細胞癌の大部分は過形成ポリープ・SSAP由来であるが、内分泌腫瘍由来、若年性ポリープ由来の可能性もある。

2017年、BJC誌に「印鑑細胞癌の半数(右側の癌)はCMS1型であり、半分(左側の癌)はCMS4型」と報告されました。2021年の日本からの報告も同様でした。これは多くの印鑑細胞癌の由来が過形成ポリープ・SSAPであることを意味します。

過形成ポリープと印鑑細胞癌の関係を、粘液(HATH1)から見る(2006年の重要な文献) 
 過形成ポリープ・SSAPは鋸歯状病変と呼ばれますが、これは粘液産生が多いからです。これは杯細胞(=粘液分泌細胞)が腫瘍化したからと予想されています。印鑑細胞癌とは「細胞がバラバラになった(EMTを起こした)、粘液癌」であり、やはり杯細胞の性質を持ちます。そして腸の陰窩が杯細胞に分化する時のマスター遺伝子=HATH1が同定されました。HATH1は吸収上皮細胞や通常の腺腫、腺癌では発現:陰性です。杯細胞、過形成ポリープ、SSAP、絨毛腺腫、粘液癌、印鑑細胞癌は全て、発現:陽性です。HATH1の有無で「分泌細胞型」と「非・分泌細胞型」が綺麗に分かれたのです。
過形成ポリープと印鑑細胞癌の関係を、EMT(上皮間葉転換)から見る
 



そして左の印鑑細胞癌が最後のブラック・ボックスとして残った
上記の如く、右の印鑑細胞癌はBRAFなどの複数のドライバー変異が見つかっており過形成ポリープ由来の多段階発癌であることは確実と思われます。一方、左の印鑑細胞癌のはドライバー遺伝子変異は極めて少なく、高率に異常が見つかるのはp53とSMAD4のみです。

2021年のReviewより

小児の網膜芽細胞腫とMRT肉腫は分子生物学的にDe Novo癌であることが証明されています。全ゲノム解析で「1個の遺伝子異常で発生する(=De Novo癌)」ことが確認されているからです。小児の大腸癌は印鑑細胞癌が多いとされており(文献)、これもDe Novoかもしれません。左の印鑑細胞癌は若者に多い傾向が有り、「左の印鑑細胞癌=小児癌的=De Novo癌的」と言えるかもしれません。原因の異常遺伝子が1個なので研究者が同定できないのかもしれません。また印鑑細胞癌は左ほど悪性度が高い(直腸が最悪)と2021年に報告されています。

SMAD4/TGFβ変異ポリープ=「若年性ポリープ」が左の印鑑細胞癌の犯人か? 

p53変異は細胞をトランスフォーム(腫瘍化)しません。この重要な事実はp53ノックダウンマウスなどの研究で確認されています(⇒p53は犯人だが真犯人ではない)。

従って左の印鑑細胞癌の真犯人はSMAD4(あるいはBMP、ACVR,Activunなど。いずれもTGFβシステムです)である、という結論になります。

これは腺腫でも過形成ポリープ、SSAPでも無い、「若年性ポリープ」の原因遺伝子です(⇒第3のポリープ)。

我々は「悪性度の極めて低い若年性ポリープ(有茎性ポリープ)」しか知りません。我々の未知の「平坦型、あるいは陥凹型の若年性ポリープ」が、1983年以来、世界中の大腸の専門家が探し求めていた相手の正体と予想されます。おそらく、直腸の炎症、ビランと区別が付かないために我々は気付かないのかもしれません。