p53は低分化癌の犯人ではあるが真犯人では無い

世界中の研究者が低分化癌(印鑑細胞癌、Colitic Cancer、De Novo型大腸癌)の遺伝子解析をしてきました。

そして「p53が早期に異常になる」という現象が共通で報告されていますが、他の「普遍的に見つかる異常(=真犯人)」は、未だに報告されていません。

しかしp53だけでは癌は絶対にできません。p53変異が意味を持つのは「癌化の最後のステップ」=Oncogene Stressによる細胞自殺の回避、の時です




最初にp53が変異しても、その細胞は3日後には消える(腫瘍化していない腸の細胞の寿命は3日です)ので、全く無害です

正常細胞にp53の変異を導入しても腫瘍化しない(細胞の寿命は伸びない)ことは、30年以上前に「ノックダウン・マウス」の研究など多くの研究がなされて確立した事実です。

通常の発癌では「遺伝子変異の蓄積」は数年をかけて進行します(WNT,RAS,PI3K、TGFβの変異が蓄積します)。p53は「必ず最後」です。

ですから未分化癌でもp53変異の前に「短期間でのゲノムの大きな異常(カタストロフイ)」が起きていなければなりません。こちらが「真犯人」と呼ぶべき変異です



これは、例えば、以前の記事にある「染色体粉砕」かもしれません。あるいは若年性大腸癌で確認されているARID1異常(クロマチン修飾の異常)かもしれません。小児の肉腫(軟部悪性ラブドイド腫瘍=malignant rhabdoid tumor: MRT)ではSWI/SNFの「単一の遺伝子異常だけで」癌が発生します(日本語総説)。あるいは潰瘍性大腸炎で起きている「トランスポゾンの大きな移動」かもしれません。あるいは未知の強力な発癌性ウイルスかもしれません。有名な「RousSarcomaVirus=RSV」は感染すると一発で肉腫を作ります。

それが真犯人なのですが、世界中の研究者が、これだけ時間をかけても見つからないのですから、「単一ではではなく、多様多種であり、多細胞生物の発生・分化に関わる最も複雑な部分」なのでしょう(おそらく、当分は見つからないでしょう・・・)