厚生省が主導して国立がんセンターなど「日本のトップレベルの大腸内視鏡専門医」達による臨床研究「Japan Polyp Study」が行われました。

この研究の目的は「大腸内視鏡の医療費の抑制」でした。

つまり・・・

「精密な内視鏡をおこなえば、必ずしも毎年の検査は必要ない。検査は3年に1回でも十分に大腸癌を減らせるはずだ」という医療費抑制のためのガイドラインを作ることを厚生省が希望し、精密な検査を期待されて「トップレベルの大腸内視鏡専門医」が選ばれた訳です。

しかしながら、結果は厚生省が期待したものとは、ほど遠いと言わざるをえません。

試験に参加した2767人の患者で4人の浸潤癌の見落とし(0.14%=700人に一人)があったと報告されたからです。

海外の似たような報告と比較すると、この数字の意味が理解できます

日本の精鋭の医師達が最新の機器を使用しても、見落としは「20年前の米国並み。ポーランドの60倍」だった訳です。

 大腸内視鏡の効果を調べた代表的な研究報告  精密な内視鏡を受けた患者さんが、
1年後に進行した癌(浸潤癌)が
見つかる可能性はどの位か?
日本 Japan Polyp Study   DDW 2014
 1年後の検査で2767人の患者で4人に浸潤癌
700人に一人
米国 National Polyp Study 平均36ヶ月後で 0.3%の人に浸潤癌
N Engl J Med. 1993
1000人に一人
ポーランド  丁寧な観察(ADRが高い)の医師に限ると10万人・年で 2.4人に浸潤癌
 N Engl J Med. 2010 
4万人に一人
(ポーランドのデータは一部の特別なグループでのデータであり、ポーランドの全ての検査がこのように高精度という訳ではありません 資料

 <追加資料>上記以外の研究報告。
内視鏡を受けた患者さんが、
1年後に進行した癌(浸潤癌)が
見つかる可能性はどの位か?
Antioxidant Polyp Prevention Study N Engl J Med. 1994 670人に一人
Calcium Polyp Prevention Study N Engl J Med. 1999 454人に一人
Polyp Prevention Trial Study N Engl J Med. 2000 714人に一人
Wheat Bran Fiber study N Engl J Med. 2000 555人に一人
Veterans Affairs Cooperative Study N Engl J Med. 2000   555人に一人
Aspirin Folate Trial7 N Engl J Med. 2003 526人に一人
Ursodeoxycholic Acid study J Natl Cancer Inst. 2005 526人に一人
真実は「500人に一人」か?「4万人に一人」か?
 <追加資料>は「薬剤の大腸ポリープ予防効果を調べる」という研究から得られたものです。医師たちは「内視鏡の精度を調べる」という意識は無く、いわば「抜き打ちテスト」になった訳です。従って「現場の実情を正確に表している」と言えます。一方、上段の「内視鏡の精度を調べる(Polyp Study)」という研究では、医師は見落としをしないように「気合をいれます」。抜き打ち検査ではないので「実情よりも、はるかに、よい結果」が出ます。「内視鏡の精度の理想値」を表していると言えます。さらにポーランドの「4万人に一人」は特別なグループ(富裕層)での結果であり「内視鏡の精度の極限値」を表していると言えます。

現在、国内外で大腸内視鏡の臨床試験が盛んです。国内外の医師は既に「見落としに対して警戒」しており、もう「抜き打ちテスト」は不可能であり「現場の実情」より、よい結果が出るだろうと予測されています。ここに紹介した資料が貴重な「最後の抜き打ちテスト」の結果です。

いずれにしても・・・状況が違うと言え同じ検査で100倍も癌の見落とし率が違うというのは大腸内視鏡だけであり、他の検査(例えばCTやMRIや血液検査など)では考えられないことです

 Q&A:「良い大腸内視鏡」とは

なぜ日本(Japan Polyp Study )は米国(National Polyp Study)に負けたのか?
このような結果になった理由として個人的に考察しますと・・・・・
(1)日本人は遺伝的に欧米人よりも急速型の大腸癌が多い。
(2)日本は過形成病変(鋸歯状病変 SSAP)を癌化しないという方針のもと放置したが、欧米は早くから警戒していた。
(3)日本は、見落としが訴訟になる米国に比べると医師の危機意識(緊張感)が低く、1件当たりにかける時間が短い
・・・・・・などが考えられます。