「ネズミを獲る猫がよい猫である」という言葉がありますが「ポリープを獲る医師がよい医師」です。「よい大腸内視鏡とは何か?」、これは今まで患者さんにはブラックボックスでした。Q&Aで解り易く解説します



腺腫発見率 とは?
A:
大腸内視鏡で重要なことは「検査を早く終わらせる」ことではありません。検査を受ける前と受けた後で、どれだけ大腸癌のリスクが低下したか?です。リスクを低下させるために最も重要なのは癌化の危険の高いポリープ(=腺腫)を1個でも多く見つけることです。従って腺腫発見率が大腸内視鏡の品質を決める最も重要な指標となります。
 

Q:本当に腺腫発見率が大腸癌のリスク低下の指標になるのですか?
A: 欧米の多くの専門家が、この点で合意しています。欧米では、腺腫発見率はQuality Indicator of Colonoscopyと呼ばれています。まず2010年、ポーランドの臨床試験で具体的に証明されました。この論文は世界中の専門医に強い衝撃を与えました。更に2014年にも米国からも同様の結果が報告されました。
 
2010年のポーランドの報告(N Engl J Med 2010; 362:1795-1803


医師の腺腫発見率が1%上がると、患者さんの大腸癌死亡率が5%下がる(2014年の米国の報告:N Engl J Med 2014; 370:1298-1306


Q:腺腫発見率が何%なら大腸癌を、どの位、予防できるのですか?
A:上記の2014年の米国の報告を日本に当てはめて、解り易く表にすると以下のようになります
 内視鏡を担当する医師の腺腫発見率 日本全国で1年間に大腸癌で亡くなる方の数
 0%
(内視鏡を受けない場合)
2万7千人
(肺癌に次いで2位) 
 10% 1万8千人
 20% 9700人
 30% 5700人
 40%  3500人
 50%  2100人
(交通事故並み)
 60%  1100人
70%  700人
(熱中症並み)
<参考>国内外の専門医の「公表されている成績」は30%前後が多いです。未公表の施設は15%前後が実態です。(根拠はこの問題が話題になる前に、多くの施設が学会・論文等で発表していた成績が、その位だからです)。また米国から極めて丁寧な検査をすると70%近くなると報告されています。

Q:腺腫発見率ではなくて、もっと直接的なデータ「ある医師の検査を受けた患者の、その後の大腸癌発生率」を知りたいです。公開できないのですか?
A:もちろん、それが最も直接的なデータです。しかし、そのデータを出すためには「患者さんが途中で医師を変えずに数年間フォローされる」必要があります。これは臨床試験以外の通常診療では難しいです。また患者さんから「あそこではもう二度と検査は受けない」と不評を買う医師は「私の患者の大腸癌はゼロである」と公言できます。患者さんが1度しか来院しないから見逃しも表面化しない訳です。逆に下記のごとく過剰検査をおこなう医師も「私の患者の大腸癌はゼロである」と公言できます。このように「癌の率」は公正なデータにするのが難しいのです。その点、腺腫発見率は医師によるバイアス・水増しが難しいので、公正な「Quality Indicator」になる訳です。

Q:苦痛無く短時間で内視鏡を挿入できる医師に検査を受ければ大腸癌を確実に予防できますか?
A:いいえ。内視鏡挿入の技術と腺腫を発見する技術は全く別のものです。

Q:内視鏡切除手術(ESD)の名人に検査を受ければ大腸癌を確実に予防できますか?
A:いいえ。内視鏡手術と腺腫を発見する技術は全く別のものです。

Q:大腸癌を多く診断・治療している施設で検査を受ければ大腸癌を確実に予防できますか?
A:いいえ。大腸の場合、癌の診断は容易です。癌化していない小さな前癌病変を見つけることが難しいのです。この二つは全く別の技術です。

Q:経験の多い医師、論文を多く書いている医師、専門医の資格を持つ医師、口コミで人気がある医師なら大腸癌を確実に予防できますか?
A:
いいえ。大腸癌を予防するのは「十分な時間をかけた丁寧な観察」です。医師の研究歴・肩書き・経験数・接客技術は意味がありません。

Q:ある医師は検査の度に毎回、必ず小さなポリープを1個切除します。この医師に検査を受ければ大腸癌を確実に予防できますか?

A:いいえ。「小さなポリープを1個見つけて終わりにする」のと「小さなポリープを1個も残さずに切除する(クリーン・コロン)」は全く別の話です。

   Q:でも素人の患者が「1個見つけて終わりにされた」のと「クリーン・コロンにしてもらった」を区別できるのでしょうか?
A;
クリーン・コロンになれば医師は「数年間、大腸癌にならない保証」ができますが、前者のような雑な検査ならできません。当院の保証システムは、他に例を見ないものです。しかしこのページを読めば、これが「本来の大腸内視鏡」であることが、ご理解いただけるでしょう。10年後には、このスタイルが全国で常識になっていると私は思います。

Q:ある医師は毎年、大腸検査を受けるよう勧めます。この医師に検査を受ければ大腸癌を確実に予防できますか?
A:予防できない恐れがあります。あなたが極めてハイリスクなので適正で必要な検査を勧められているのか?その医師が「過剰検査」を勧める不良な医師なのか?答えは、その医師の腺腫発見率で判断できます。その医師の腺腫発見率が低いなら、その医師の行為は単に「雑な検査をして、見落とし対策に毎年の検査を勧めている」だけの過剰検診です。

Q:毎日、たくさんの件数の検査をしている医師(病院)の検査を受ければ大腸癌を確実に予防できますか?
A:
いいえ。そのような施設はhigh volume centerと呼ばれます。外科手術の場合は「件数と品質が相関」するので、重要な指標になりますが、内視鏡の場合は相関しません。雑な検査を大量生産するhigh volume centerは珍しくありません。今後の日本の大腸癌検診では、「量から質への転換」が重要な課題です。

Q:雑な検査でも毎年受ければ大腸癌の早期発見に有益なのではないですか?
A:
いいえ。大腸癌は発見の容易な癌なので「雑な内視鏡」でも受ければ癌を発見できるメリットは確かにあります。しかし癌を早期発見するだけなら内視鏡と「便潜血検査」に差はありません(資料)。微小な前癌病変も見つけて切除しなければワザワザ、内視鏡をする意義(有益性)はありません。

Q:米国では大腸内視鏡は5〜10年に一度と聞きました。でも近所の医師からは毎年の内視鏡が必要と言われます。どうして違うのですか?

A:この問題は米国では2006年頃に議論され結論が出ています。(1)高精度の内視鏡をすれば頻度を少なくできる(2)想定外の事態へ対応するために、毎年の便潜血検査を内視鏡にハイ・ブリッドさせる、というのが米国の結論です。日本が遅れているだけです。

 

Q:なぜ日本では腺腫発見率が話題にならないのですか?
A:1990年代、米国ではポリープ切除で大腸癌が予防できるか?という研究が行なわれました。そして予防率が内視鏡の精度で違うことが判り問題になりました。2006年頃からNew York Timesが頻繁に「本当に大腸内視鏡は有効なのか?医療費の無駄遣いではないのか?」という記事を報道し、米国学会との論争に発展しました(下記)。そして医師側にも「重要なのは量でなく質である」「大腸内視鏡の品質(腺腫発見率)を明示すべき」という考えが広まりました。米国の医師が誠実だから、という訳ではなく「マスコミの圧力」で動いたというのが実態です。日本では、そのような圧力が無いだけの話です。