内視鏡検査後4年以内の大腸癌は前回の検査でのポリープの見落とし(又は不完全切除)が原因である

まず、以下のような場面を考えてみましょう・・・・

内視鏡検査を受けた方に見つかる大腸癌は何年以内までを「前回検査のポリープの見落としが原因」と考えるべきか?世界内視鏡学会という、日本も深く関わっている組織が、「4年以内と考えるのが合理的である(Most Plausible Explanation)」という声明を発表しました(文献

いくつか重要な点を解説します

声明は4年以内の内視鏡後・大腸癌は全て「医師の責任」とは言っていません。見落としの原因は「不可抗力な患者さん側要因」もあるからです。大腸内視鏡の見落としの多さを警告するのが本声明の目的です。

日本では、「大腸癌はポリープを経ないで正常粘膜から発生する(De novo)」という説がありましたが、声明は、この日本の独説を明確に否定しました。(rapidly progressing precancerous polyps remains to be determined, but is certainly low)

一方、遺伝性大腸癌(HNPCC状態)の方には「De novoに近い癌」が出来易いという報告もあります(次回は、この問題を取り上げます)

声明は「内視鏡後・大腸癌の集計の難しさ」の問題提起をしています。「検査の苦痛」「予約が混んでいる」などの理由で患者さんが検査を受ける病院を変えることは珍しくありません。そのため内視鏡後・大腸癌は「表面化しにくい」傾向があります。「私は内視鏡後・大腸癌の経験はゼロです」と公言する(信じている)医師は実はたくさんいます。

しかし、日本で初めて内視鏡後・大腸癌を調査した厚生省の研究「Japan Polyp Study」では、誰も予想しなかった高い頻度(1年後に700分の1)で内視鏡後・大腸癌は実在することが解りました。



表面化しにくい、問題視されないだけで殆どの医療機関の内視鏡後・大腸癌は、もっと多いと予想されています。

多数の施設を平均すると1年後の内視鏡後・大腸癌の頻度は計算上(per person-years)600人に一人です(文献)。

最初の数年は直線的に累積しますから(詳細)4年間では4倍になります。つまり・・・・
大腸内視鏡とは150回に1回の割合で、致命的なポリープの見落としが起こる検査であるという結論になります。

他臓器の癌と比較しても「非常に見落としの多い癌検診と言えます。大腸癌の実数が多いこと、限られた時間で長い腸内を調べなければならないことを考えれば、驚くべきことではないのかもしれません・・・

最近は検査後に「いかに見落としが多いか」を紙面で説明する医師も多いようです。


欧州からの報告
内視鏡後・大腸癌比率=PCCRC Rateは(内視鏡後大腸癌の実数)÷(全大腸癌の実数)で計算されますが、医師により10倍の格差(技術格差)があることが確認されています。 声明の目的は「医師の成績表」を作り、検診の質を上げることですが、集計法(特に「除外規定」)の違いで、結果が大きく異なります。

英国(文献  ),ベルギー(文献)、スウェーデン(文献)からの報告では、PCCRC Rateは7〜8%で、ほぼ同じでした。
一方、フランス(文献)からは1%と極めて低い数字が報告されていますが「低すぎる」と見る意見もあります。
フランスは「移民が多く再検査を異国で受ける(経済的理由から受けられない)人も多いので内視鏡後・大腸癌が表面化しにくいのでは?」という意見です。

日本からの報告・・・・・経験豊富な専門医なら見落としは少ないか?
(デリケートな問題なので文献へのリンクは無しとします)日本からは某大学病院がPCCRC Rateは0.7%と極めて低い数字を報告していますが、同時に比較された有名な内視鏡専門病院の頻度は倍以上でした。また都内の病院からも興味深い報告が二つありました。一つは東大病院からで、もう一つは癌センター出身の先生の有名な内視鏡専門クリニックからの物で両者とも「過去に2度以上、内視鏡を受けた患者さんの記録」を調査したという報告です。内視鏡後・大腸癌発症率は、前者は「7人/2544人=0.27%」、後者は8人/2622人=0.3%でした。

苦痛の無い検査を求めて民間の専門病院・クリニックを受診される方は多いのですが・・・・
経験豊富な医師の専門クリニック・病院が、(若手医師も検査を行う)大学病院より見落としが多いという実態が浮き彫りになった訳です。

「過長な腸、癒着の強い腸」の方は、挿入が難しいので大学病院を倦厭し専門クリニックに集まるから上記の結果になったのかもしれません(そういう腸は死角が出来易いのです)。大学病院は既に他で癌の診断が着いてから紹介される方が多く「新患」がほとんど無い(2度目の内視鏡)から、統計上の見落としが少ないだけかもしれません。

いずれにせよ内視鏡後大腸癌の集計には複数の「除外規定」があるため、医師が自分に最も有利な方法で集計し宣伝に利用することも可能です


議論は灰色だが現実は緑(ゲーテ)

結局、重要なのは、過去の記録から捻出された数字では無く、「自分の内視鏡後・大腸癌の危険はどの程度で、医師はそれを、どこまで保証できるか?」という目の前の現実の訳です。