乳製品は大腸癌を増やすか?減らすか?

始めに
母乳は乳児にとって最も理想的な食品です。抗体ができていない乳児は母乳から抗体を入手します。 しかし同時に母乳は子供にとって最も危険な存在です。ATL(ヒト白血病ウイルス)は母乳を介して 感染します。さらに動物では多くの発癌ウイルスの例があります。ウイルスにとっては母乳は伝染に理想的なルートなのです。
ですから 成人が 他の動物の母乳(牛乳)を低温殺菌という マイルドな方法だけで飲用することが果たして良いのか? ここが科学者たちの論争になっています。


「脂肪の多い牛肉が大腸癌を増加させる」ことに異を唱える専門家はいません。しかし、牛乳・乳製品になると「論争」になります。
2018年頃までは「牛乳・乳製品の大腸癌への効果は何とも言えない」という主張が多かったのですが2019年頃から「牛乳・乳製品は大腸癌を予防する」という主張(勧告)が多く出るようになりました。(当院HPでも、これらの報告が出てから乳製品の推奨を記載しています)

牛乳・乳製品の大腸癌リスクを調べた代表的な報告
 2019年のメタ解析    29の研究報告
延べ22000人を解析
 牛乳・乳製品により大腸癌のリスクが平均20%減少する
 2019年のメタ解析    米国の大腸癌52000人を解析  大腸癌は「食事の影響が最大の癌」であり、乳製品の不足は大腸癌の原因である
2018年の報告  AICR(米国癌研究協会)の報告  乳製品が大腸癌を予防する証拠は「Probable Strong」であると、2017年のメタ解析を根拠に宣言
現時点では「最も影響力の強い勧告」と言える
 2018年の調査  ノルウエー8万人の女性で調査  乳製品の大腸癌予防効果は統計的に弱く、解析法で違う結果が出るレベルである
 2018年のレビュー  過去の論文の総説  乳製品が大腸癌を増加・予防するかは相反する報告が多く何とも言えない
=乳製品が大腸癌を予防、  =どちらとも言えない

そもそも、こういう勧告が出たのも「乳製品が癌を増やす」という研究が多数、報告されたからです。この問題は「牛乳だけに限らない特徴」と「牛乳に特異的な特徴」に分けて考えないと混乱します




牛乳だけに限らない特徴

牛乳はタンパク質、脂肪、ビタミン、カルシウムなど非常に栄養が豊富です(子供の成長のためにあるのですから当然の話です)。 そして栄養過剰は細胞の寿命を延長し、癌の原因になります。しかし、 これは牛乳に限らず 卵、魚、他の動物の肉、全ての栄養豊富な食品に共通する特徴です。 どんな栄養でも過剰に摂取すれば有害なのは当然の話で、我々の体格が 立派になった代償として、癌が増えた訳ですから牛乳だけを問題視するのはナンセンスです。

尚、肥満は重要な大腸癌の原因です。しかし「低脂肪牛乳と高脂肪牛乳で大腸癌の発生リスクに差は無い」と結論されています(この理由は不明で、専門家は頭を抱えています・・)。

この「栄養過剰⇒癌」の現象は分子生物学的に言うと「IGF(成長因子)が高値になり、mTOR-Akt Kinase系が亢進」と表現されますが、簡単に言うと下の漫画になります。





牛乳に特異的な特徴・・・・これが「本題」と言えます

牛乳には牛乳にしかない特異的な「感染・腫瘍抑制因子」が多く含まれます。最も有名なのはラクトフェリンで、他にラクトアルブミンHAMLETと呼ばれます)、IgA抗体、抗菌ペプチドなどがあります。

そして牛乳には牛乳にしかない特異的な「感染・腫瘍促進因子」が含まれます。こらが、前回の記事で紹介した「熱に強いウイルス、プラスミドなどの感染性因子」です。

ですから「牛乳が是か非か?」という命題は、このメリット、デメリットのどちらが大きいか?という命題に言い換えられます。(結論としてはメリットの方が大きいのですが僅差です。改良の余地が大いにある訳です)



この問題を最も古くから追っている、発癌ウイルスでノーベル賞を受賞したハウゼン博士の考えを紹介します。博士は「種の壁」を重視します。

「感染・腫瘍抑制因子」の多くは糖鎖で「種の壁」で効果が半減します。牛の母乳(牛乳)は仔牛の「感染・腫瘍抑制効果」が高いのですが牛以外の種(人間)にとっては効果が半減すると博士は主張します。上記論文ではDisialyl-lacto-N-tetraoseとNeu5Gcが例として挙げられています。(尚、牛乳メーカーの研究では牛のラクトフェリンは人間にも十分に効果があるという主張です。)

逆に発癌性ウイルスは、本来の宿主と違う宿主に感染すると発癌性が格段に上がります。牛には無害のウイルスが人に感染すると発癌性を持つという訳です。非・許容性宿主と呼ばれる現象で、博士はこの現象の「第一人者」で、ノーベル賞受賞研究の中心部分です(2001年Lancet論文  2015年Review)。他の研究者が「牛乳に発癌性ウイルスがいる」と言っても、説得力が無いのですがハウゼン博士が言うと説得力がある訳です。

また上記論文では「牛の種」により発癌リスクが違うとあります。具体的には欧州種の牛がアジア種よりも発癌性が高いようです。牛が生来持つウイルスは種により違いがありますから合理的な説得力があります。

現時点で言えるのは、ここまでです。ハウゼン博士が子宮癌の原因ウイルス(HPV)を発見した後、研究はHPVワクチンへの開発と発展しました。博士の論文を読むと、おそらくは「発癌性の低い牛の品種改良またはワクチンの開発」を目指していると思われますが・・・・まだまだ完成は先のようです。