ウイルスへの消毒液効果判定の問題点

 

Q:ウイルスは細菌に比べ消毒に弱いから脅威ではない?

A:Noです

Q:現在の標準的消毒法で全てのウイルスが死滅することが確認済みである?

A:Noです

Q:未確認ウイルスへも消毒の効果は保証されている?

A:Noです

 

ウイルスへの消毒の効果判定は難しい
ウイルスの活性は培養細胞にウイルスを感染させて細胞の変性を見て調べます(ウイルスは、そもそも生きていない!)。しかし、感染細胞株の無いウイルス、感染しても細胞が変性しないウイルス(例えばC型肝炎ウイルス)は、消毒の効果を調べるのは非常に困難(人体への感染実験以外には不可能)です。 現実問題として3万種
のウイルス全てについて消毒の効果を確認することは不可能です。

本当に危険なのはウイルス
例外はありますが、通常、細菌感染は抗生物質で完治します。しかし、ウイルスの中には一度感染したら、遺伝子に組み込まれて子孫にまで影響するものもあります。

現在、人間を発癌させる病原体はB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パピローマウイルス、EBウイルス、HTLV1、ヘルペスウイルス(HHV8)、ピロリ菌です。このうちピロリ菌以外は全てウイルスです。一方、動物の癌の原因は、多くがウイルスです。人の発癌ウイルスは少ないのですが、これは人の癌にウイルスの関与が小さいというよりも、感染実験がおこなえないため人の発癌ウイルスは「発見されにくい」からです


ウイルスは消毒に弱い?
エイズやB型肝炎ウイルスは、確かにそうです。これらのウイルスは表面にエンベロープという脂質膜をもっており化学薬品(消毒)で容易に変性するのです。
しかしエンベロープを持たない小型ウイルスは細菌以上に消毒に抵抗性です。上述の発癌ウイルスではパピローマウイルスが、これに相当します。


パピローマウイルスについて

以下、詳細ですが、パピローマウイルス(以下HPV=HumanPapillomaVirus)をモデルにして現在の消毒の問題点を追及します。

HPVはありふれたイボウイルス
HPVは皮膚に感染しイボをつくるありふれたウイルスです。我々のほとんど全員が感染した経験があります

変異種が癌をつくる
ありふれたウイルスなのですが遺伝子が変異すると子宮癌、陰茎癌、肛門癌、一部の食道癌の原因ウイルスになります(これは、多くの発癌ウイルスに共通の現象です)。これは細菌消毒では問題にはならない深刻な点です。「弱い中途半端な消毒」は遺伝子変異を起こし、逆に発癌性を増す危険があります(ゴミを燃やしてダイオキシンができるのに似ています)

パピローマウイルスと癌について

HPVは接触伝染病
「風俗でコンジローマが伝染する」という話を聞いた男性は多いでしょう。このコンジローマの犯人は変異HPVです。すなわち性行為感染症です。

内視鏡でHPVが感染する可能性は
HPVの多くいる場所は生殖器(特に子宮頚部)です。しかし、肛門、口腔内からも検出されることがあります。接触により感染しますから(性行為感染症)、理論的に内視鏡の消毒が不十分なら伝播原因になります。しかし、潜伏期間もあり、感染してもイボ以外は無症状なので、もし感染が起きても「解らない」でしょう。現時点では内視鏡でのHPV感染の報告はありません(誰も調べていないし、現実的に調査も困難です)

血液検査では感染者がわからない
日本女性の10〜50%にパピローマウイルスが常在しているといわれています。しかし、血液検査(抗体検査)などで感染者を事前に調べる方法はありません。

HPVは消毒に強いと予測される
上記のごとくHPVはエンベロープを持たないウイルスです。一般に、このタイプは通常細菌よりも消毒への抵抗性が強いです

現在の消毒法でHPVは死滅するか
HPVは培養細胞への感染が難しいため消毒の効果を調べるのが困難です。現時点ではHPVへの消毒の効果を調べた報告はありません。つまり、「誰も判らない」というのが正解です。なお、HPV感染が最も多い産婦人科領域では汚染の危険のある器具はオートクレーブ(高温高圧滅菌)できるので消毒が問題になることはありません。

類似ウイルスへの効果より推測
従ってHPVへの消毒の効果は「類似のウイルス」への消毒への効果から推測するしかありません。上述のように「
エンベロープを持たないウイルス」への消毒効果から類推することになります

アデノウイルス、ポリオウイルスへの消毒効果を参考にする
ともにHPVと同じエンベロープを持たないウイルスです。また、ともに口から進入し人間の消化、免疫機構に耐えて腸管に達することから非常に「抵抗力の強いウイルス」と考えられます。この二つは培養実験が可能であり、両ウイルスは消毒剤の効果を知る上で重要なマーカーになります。

過酢酸のデータは
過酢酸の発売元サラヤ社資料によれば、アデノウイルスは2.5分、ポリオウイルスは5分処理で死滅します。ただしポリオは2.5分では殺せませんでした。ちなみに細菌の中で「最も消毒に強い」と言われるBacillus菌(芽胞)は、過酢酸1分で死滅しますから、ウイルスが想像以上に消毒に強いことがわかります。

フタラールのデータは
フタラールの発売元Johnson & Johnson社資料によればアデノウイルス、ポリオウイルスともに5分処理で死滅します。他のエンベロープを持たないウイルスでは、コクサッキーウイルス、ライノウイルスが5分処理で死滅します。(残念ながら2.5分での実験はおこなわれていません)

パピローマを最近、話題の「ノロウイルス」に置き換えても全く同じ理論が成り立ちます。ノロウイルスもエンベロープを持たない(=消毒に強い)、かつ、培養実験が不可能(=消毒の効果が検証不可能)なウイルスです

安全マージンは必要?過剰?
ここからが・・・核心です。

「調査済みウイルスは全て5分間消毒で死滅したので、消毒は5分でよい」という考えが、現在の「標準的消毒(高レベル消毒)」の根拠です。(資料

「調査済みウイルスは全て5分間消毒で死滅したので、その5倍の安全マージンを確保すれば未調査ウイルス、未知のウイルスへの効果も十分に期待できる」というのがステリスシステムの根拠です。

参考 

現在の日本の「標準的消毒法(高レベル消毒)」=過酢酸またはフタラールで5分間消毒する。

「ステリスシステム」=過酢酸10分消毒+フタラール15分消毒+強酸性水消毒+アルコール消毒。(標準の5倍以上の消毒)各ステップの詳細


なお、私(=院長の鈴木)は学位を「発癌ウイルスの研究」で取得しており(東大医科研ウイルス部)、内視鏡とともに実はウイルスも専門分野です

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