内視鏡下細胞注入という未来医療
iPS細胞を使った再生医療では幹細胞あるいは幹細胞から誘導した分化した細胞の「投与(移植)法」が問題になります。多くの場合は全身投与ではなく「局所投与」ですから、この分野は内視鏡が威力を発揮します。今回の話題は、まだ研究段階ですが「夢の話」を、まとめます。
便秘症・IBSへの神経細胞の局注
人の慢性便秘のモデル・マウスに幹細胞から誘導したNO産生神経細胞を大腸に注入することで「便秘を根治した」という報告が最近のNatureにありました。ブログでも紹介しています。これは食道アカラシアにも応用できるでしょう(POEMと同じ効果)。
現在、腸管神経細胞胞(ENS)と腸管免疫の複雑なネットワークの解明が進んでいます(例:2024 Science)。IBSや下痢症でも「キープレイヤーとなる免疫or神経細胞」が同定されつつあり、細胞移植で根治する時代が来るでしょう。
難治性潰瘍性大腸炎への上皮オルガノイド移植
東京医科歯科大学が2022年に成功しました(記事)。移植する技術開発に成功したという報告で、その後の臨床効果の報告は未だです。重要な点は移植オルガノイドが「Lgr5+腸管幹細胞」を含んだ「ミニ陰窩」だという点です(分化した上皮シートを移植しても数日で寿命を迎えるので無意味)。
クローン病の小腸狭窄
MSC(免疫抑制作用を強く持つ間葉系幹細胞)を移植するとIBDが治ると言う報告が10年前にありました。しかし経静脈的に全身投与するのは現実的ではなく、「クローン病の複雑痔ろうに局所投与」する治療だけが残り、日本でも開始されました(文献)。最近の長期経過の報告でも良い効果が見られているようです(文献)。
クローン病の小腸狭窄に対して小腸内視鏡を使ったバルーン拡張が行われていますが再狭窄が多いことが問題です。再狭窄予防を目的にステロイドやTNF抗体の局注が試みられていますが効果は無いようです(文献)。理論的に内視鏡を使ったMSC移植は、この難問の解決策になると予想されます(現時点で、そのような報告はありません)。
憩室症への細胞移植
大腸憩室症の本態は「憩室(くぼみ)」ではなく、腸管全体の線維化・硬化にあるというのが最近の理論です。これはブログでも紹介しています。憩室では無いのですが最近は「繊維症の新しい薬剤」が開発されています。最も有望なのはネランドミラスト(PDE4B阻害剤)です。更に、「繊維化を予防するだけではなく元に戻す」効果があるIL11阻害剤の試験も始まりました。これらは「憩室の治療に革命を起こす」可能性があると予想されています。
近年、憩室症の細胞生物学的解明が進んでいます。2024年には「虚血・酸化ストレスとの関係」が報告され(文献)、更には「根本的原因はミトコンドリアの異常である」という新仮説まで出てきました(Review)。
将来、憩室症の病態の「キープレイヤー(免疫細胞・間質細胞)」が同定されれば、内視鏡下細胞注入で根治(進行防止だけでなく元に戻す)の時代が来るでしょう。
大腸癌の「免疫抑制微小環境(TME)」を改善する
CMS1型はMSI陽性で抗原性が高く(Hot Tumor)、腫瘍周囲には免疫細胞が多く浸潤しています。なぜCMS1が攻撃を受けないか?というとチェックポイント分子を発現しているからです(免疫回避)。これがCMS1に免疫チェックポイント阻害剤が有効な理由です(⇒ポリープの癌化は免疫で阻止される)。
免疫チェックポイント阻害剤を腫瘍に局注すれば副作用無く、全身投与より高い効果が得られることが皮膚癌で注目されています(2024 Review)。当然の話で「CMS1型癌への内視鏡的チェックポイント阻害剤局注」が検討されています。しかし皮膚と異なり内視鏡的投与は「反復投与ができない」という重大な欠点があります。「免疫抑制微小環境」を改善する「キープレイヤーとなる細胞」が同定されれば「1回の投与」で大きな効果が得られるはずです。
このキープレイヤーを探し求めて、膨大な数の免疫抑制微小環境(TME)の研究が行われています。Treg、M2型マクロファージ、CAF、TAM、好中球、樹状細胞、乳酸(酸性環境)など「多くの役者」が登場し複雑な舞台となりました。更にCMS4型はSCNA(染色体不安定性)で抗原性が高いのに免疫療法が全く効かないという「CMS4の免疫パラドックス」もり、「混沌としている」というのが正直な感想なのですが・・・本庶博士のような「天才」のブレークスルーを期待するしか無いでしょう。
消化器癌へのCAR-T
CAR-TはB細胞白血病や自己免疫疾患の治療に大革命を起こしています。更に「格安(大量生産型)CAR-T」も開発されました(ブログ記事)。
固形腫瘍へのCAR-T開発は難航していたのですが、中国がClaudinを標的とした胃癌へのCAR-Tのフェーズ1を終了し,、この重要な分野で世界をリードしました(2024 Nature Med).。経静脈的投与で行われましたが、効率を上げるために腫瘍周囲への局注も今後、検討されるでしょう。