当院のプリオン対策の強化
・・・医療でアルツハイマー病やパーキンソン病が伝染する可能性について

当院では2005年よりアルツファイマー病の方の予約を制限させていただいています(⇒プリオン対策の詳細)。アルツファイマー病が伝染病(プリオン)であるという説からです。主旨を要約しますと

(1)医療を介する感染の最大の脅威はプリオンである
内視鏡は1件づつ「高レベル消毒」されます。ウイルスも細菌も高レベル消毒で死滅しますからHIVも肝炎ウイルスもコロナウイルスも脅威ではありません。しかしプリオン(アミロイド・タンパク)を不活化する消毒法はありません(消毒不可能な伝染病)。有効な対策は患者さんと健常者の「分離」です(欧州のガイドライン。日本のガイドラインはプリオンは完全に無視です)。感染は内視鏡に限らないあらゆる外科的医療(歯科、耳鼻科、整形外科など全て)で起きます。プリオンの最大感染ルートは医療という意見もあります。しかし潜伏期間が10年以上と長いために因果関係の調査は非常に難しい訳です。



(2)患者の脳(神経細胞)を「共食い」すると感染する

まず、アルツハイマー病の家族と一緒に生活しても感染しないので安心してください。感染は「患者さんの脳を食べた場合」にしか起きません。ニューギニアのクール病や狂牛病は「脳を食べる」ことで発生しました

(3)胃カメラでは分子レベルで「共食い」が起きる

消化管は「第2の脳」と呼ばれるくらい神経細胞が豊富です。胃カメラで細胞検査をすると神経細胞の分子が付着します。これは、洗浄・高レベル消毒では除去されないので胃カメラを介して「分子レベルで共食いと同じ現象」が起こる訳です(大腸は吸収が無いので理論的には大腸検査では共食いは起きません)。

(4)現在、アルツファイマーが伝染病(プリオン)であることは「仮説」ではなく「定説」
当院が予約制限に踏み切った2005年頃は、アルツハイマーがプリオン病であるというのはまだ「仮説」でした。当院は異端視され、現在に至るまで予約制限を敢行しているのは、国内では当院のみです。しかし、現在、アルツハイマー=プリオン説に疑義をもつ専門家は皆無であり、もはや「定説」です。つい先日、2024年のNatureでも「プリオンの伝搬による医原性アルツハイマー病」が報告されています


今回の主題に入ります。結論を先に書きます。

アルツハイマー病だけでなく、パーキンソン病、その他、多くの「神経変性疾患」がプリオン病らしいという報告が蓄積されつつあります。予約制限の対象をアルツハイマー病の方だけでなく、パーキンソン病その他の「神経変性疾患の患者さん」全てに拡大します。

このような制限を行っているのは当院のみであり、他の医療機関では内視鏡検査が可能です。現時点では仮説を根拠にした医師の個人的見解に基づく個人医院の方針に過ぎません。

プリオン伝搬の可能性は内視鏡に限らず、全ての医療行為に内在します。プリオンを恐れて医療を受けないのは原始時代に戻ることを意味し、ナンセンスでしょう。しかし確率的危険を低くするため、極力、可能な対策をとるべきと考えます。神経変性疾患の患者さんが外科的医療を受ける場合はセンター化して健常人の医療(当院のような検診専門施設)と分けるのが、合理的な対策と考えます

当院の判断は杞憂かもしれません。しかしながら臨床では基礎医学の結論を待たずに予測による早期決断も要求されます。


パーキンソン病はプリオン病の可能性が高い

パーキンソン病の原因はα-シヌクレインというタンパク質の凝集体(レビー小体)
α-シヌクレインが脳内に凝集・沈着(アミロイド)して神経細胞が破壊される
α-シヌクレインは伝染自己増幅する(プリオン 下図)

         東工大 田口秀樹先生のHPより引用
異常α-シヌクレインはは最初にどこで発生するか?⇒腸で発生する。パーキンソン病とは本来「腸の病気」である
α-シヌクレインが迷走神経を伝って脳へ到達する
脳内でα-シヌクレインが自己増幅して脳を破壊する




文献
  1. Staging of brain pathology related to sporadic Parkinson's disease(2003年文献)パーキンソン病が腸から脳へのシヌクレインの伝搬拡大で起こるという仮説を提唱した歴史的論文
  2. Lewy body extracts from Parkinson disease brains trigger α-synuclein pathology and neurodegeneration in mice and monkeys(2014年文献)パーキンソン病患者の脳抽出物の注入で猿にパーキンソン病を発症させることに成功(伝染性を証明)
  3. The concept of alpha-synuclein as a prion-like protein: ten years after(2018年文献)シヌクレインがプリオンであることを提唱した研究者のレビュー
  4. Inoculation of α-synuclein preformed fibrils into the mouse gastrointestinal tract induces Lewy body-like aggregates in the brainstem via the vagus nerve(2018年文献)シヌクレイン凝集体を腸に注入して脳にパーキンソン病を人工的に引き起こすことに成功
  5. Parkinson's disease from the gut(2018年文献)シヌクレイン蓄積は腸から始まるというレビュー
  6. The Neural Gut-Brain Axis of Pathological Protein Aggregation in Parkinson's Disease and Its Counterpart in Peroral Prion Infections(2021年文献)パーキンソン病の伝搬様式と経口プリオン病の類似点
  7. Reactive microglia enhance the transmission of exosomal α-synuclein via toll-like receptor 2(2021年文献)グリア細胞とエクソソームによりシヌクレイン凝集体は細胞間を伝搬する
  8. α-Synuclein seeding activity in duodenum biopsies from Parkinson's disease patients(2023年文献)最初のシヌクレイン沈着は十二指腸で起こる
  9. Intrastriatal injection of Parkinson's disease intestine and vagus lysates initiates α-synucleinopathy in rat brain(2023年文献)パーキンソン病患者の腸組織をマウスの脳に注入して人工的にパーキンソン病を起こすことに成功

 ●組織移植でパーキンソン病が「伝染」することを示した2023年の報告(文献

ALSもプリオン病か?

アルツハイマー病とパーキンソン病以外に多くの神経変性疾患がプリオン病という説があります。特に重要なのはALSです(2020年のレビュー)。ALSというと「特異な体質の人に起こる稀な病気」と思われるでしょうが、実は家族歴の無い健康な人に突然、発症します(我々の誰もが、明日、発症しても不思議ではないのです)。ALSの病因と予想されている分子(SOD,TDP43,FUS,TIA-1)が、いずれも「プリオン様ドメイン」を持ち「アミロイド凝集体」を形成することから「ALS=プリオン病」の可能性を疑っている研究は多くあります。
しかし、アルツハイマー病、パーキンソン病のように「動物実験でALSの感染が証明された」という報告は無く(実験が失敗している)、ALSは「プリオン病+アルファ」が、あるようです。近年「相分離(膜の無い細胞内区画)の研究」が「アミロイド凝集体の研究」の突破口になると期待されており、謎に包まれたこの難病も、もう直ぐ病態が解明されるはずです。

総合的に判断し、当院では「ALSを含め全ての神経変性疾患」を予約制限の対象に拡大します。


<制限の対象>「神経変性疾患」とは以下のプリオンの可能性のある疾患を言います。脳卒中の後遺症の麻痺などは「神経変性疾患」ではありません(制限対象ではありません)
神経変性疾患⇒アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、レビー小体型認知症、前側頭型認知症(ピック病)