自分の腸内細菌叢を、想い通りに変えられたら人生は最高!

腸内細菌の大航海時代
メタゲノム解析(大量のDNAを自動解析機で調べる技術)の手法が確立され、かって「暗黒大陸」だった腸内細菌の新知見が膨大に見つかっており、今や「Big DATA」です。今、簡単に検索しただけで直ぐに以下のような報告が見つかりました。当に「大発見の大量生産の時代」になったと感じます。
 222年10月にネット検索で見つかった腸内細菌の記事(いずれも「Nature」などの権威ある医学誌)
  • B. acidifaciens(バクテロイデス属菌)はL-アラビノースの抗肥満作用に重要(慶應大学)。
  • 膵癌の進行に関する腸内細菌を同定(東京医科大学)
  • 腸内の消化酵素が多いとIgAが分解され感染に脆弱になる。P. clara菌は消化酵素を分解する有益な菌(理研、慶應大学)
  • 100歳以上の長寿者を調べ抗菌作用のある物質(isoalloLCA;イソアロリトコール酸)が多いこと、これらを産生する有益な菌を同定(慶應大学)
  • 腸内細菌の作る「酢酸」がIgA産生を増やしT細胞を活性化し病原菌への抵抗性を高める(理研)
  • 肥満、糖尿病、癌へオブジーボの効果を高める「史上最高の善玉菌」アッカーマンシア・ムシニフィラ菌


知見は豊富。しかしどうやって腸内細菌を希望通りに変えるか?その手段が最大の課題


FMT(糞便移植)は、新たな治療法であると以前に紹介しました。最近「経口カプセルによるFMT」の臨床試験が成功し、いよいよFMTは身近な医療になってきました。

しかし、果たして感染のリスクを伴うFMTが、ベストの手段なのでしょうか?最近、FMTの危険性を指摘する意見も増えてきました(2021年2021年2022年)。
もっと安全で確実に腸内細菌を変える手段は無いのでしょうか?最近のNatureに、この問題のレビューがありました(下図)。


帝王切開とFMT(糞便移植)
新生児から検出される細菌は早産などの周産期トラブルと深い関係があります。また帝王切開で生まれた新生児は腸内細菌の発達が悪く、免疫系の発達が遅れます。これは出産時に母親の便を摂取しないからとされています。 そこで母親から乳児への糞便移植が試みられました。理論的に「最も安全な糞便移植」と思われたのですが、母親由来の病原菌による重篤感染が起きました。そこで母親由来の「膣内細菌叢」を新生児に経口投与する試みが行われています。

FFT(糞便濾過移植)の正体はファージか?
糞便移植には感染の危険性があることから、これを濾過して「細菌を除去した糞便移植」が試みられました。驚くべきことに糞便移植よりも効果が高いことが解りました。この報告から糞便移植の主役はファージ(細菌に感染するウイルス)ではないか?と予想されました。細菌より遥かに微少なファージは濾過をすり抜けるからです。

食事療法と腸内細菌
この問題は「ニワトリと卵(どちらが先か?)」に似ています。「糖と脂肪を過剰に取ると太る」という人間では「常識の現象」が「無菌マウス(腸内細菌=ゼロ)」では起きません(2007年)。「痩せマウス」と「肥満マウス」は腸内細菌が異なり、糞便移植により「互いの体質を交換できる」ことが実験で確かめられていましたが、最近、人間でも似た現象が報告されました。「高繊維食による減量」はPrevotella菌が多い人には有効ですがバクテロイデスが多い人には無効です(2017年)。そして後者の体質はビフィズス菌の補充で逆転します。

発酵食品の科学的根拠
人が食べる量のヨーグルトに含まれる乳酸菌が本当に人の腸内細菌叢を変えるのか?この点に疑問を持つ科学者は多いです。2020年のNatureに「摂取した発酵食品中の乳酸菌」と、その後の「腸内に生息する乳酸菌」が同一の株であるという報告がありましたが、このような基本的な事実でさえ今まで「謎」だった訳です。


Prebiotics,Probiotics,Postbiotics
用語解説:例えば、「酪酸」は癌予防効果があり「酪酸産生菌」は善玉と言われます。この場合、酪酸菌の栄養になる植物繊維がPre、酪酸菌自体がPro、酪酸がPostに該当します。
しかし「植物繊維は悪玉菌の栄養にもなるのではないか?」など異論も多い話です。過剰な植物繊維は肝臓癌を起こす(2018年Cell)。過剰な酪酸は発癌を促進する(2018年Cell)。発酵性植物繊維は大腸炎を悪化させる(2018年Cell)などの報告が権威ある科学誌に報告されています。現在、最も有望視されている「酪酸」に発癌性が有った訳ですが、以前に「乳酸菌には発癌性が有る」という話題があったので驚くことでは無いのかもしれません。
次世代Probiotics(NGP) 「乳酸菌・酪酸菌に続く新たな善玉菌の探求競争」が研究者の間で激化しています。メタゲノム解析により新たに見つかった善玉菌をNGP(Next Generation Probiotics)と呼びます。最も研究されている NGP は「史上最高の善玉菌」の異名を持つアッカーマンシア・ムシニフィラ菌です(2019年Nature)。
最も注目される4つのPostbiotics (1)低温殺菌されたアッカーマンシア・ムシニフィラ菌(死骸)、(2)ラクトバチルス菌の作るp40(腸粘膜バリアーを改善する)、(3)酪酸などのSCFA(短鎖脂肪酸)、(4)二次胆汁酸(熊の胆汁酸は昔から有名ですね)


武田製薬工業の「タケダ ライフシアター(日本橋)」


狙った悪玉菌だけを殺す殺し屋「ファージ

クレブシエラ菌が潰瘍性大腸炎を悪化させるという報告が以前からありました。しかしクレブシエラのみを殺す手段がありませんでした。抗生剤は他の「有益菌」も殺してしまいます。乳酸菌製剤を飲んでも、効果はありません。糞便移植は潰瘍性大腸炎に有効ですが、他の有害な病源体も移植してしまう危険があります・・・・・最近、Cellに注目すべき報告が有りました。

それは「ファージ」という細菌を殺すウイルスを使うという方法です

ファージは今までは「タンパク質を人工的に生産する手段」としての利用が主でした(ファージディスプレイ技術(PDT))。言わば「工業用ファージ」と言えます。ファージを使い細菌にタンパク質を作らせるのですが、オブジーボなどの「抗体薬品」はPDTにより実用化したと言われています。

実は畜産、食品の分野では、既に「治療用ファージ」の応用は進んでいます。以下は酪農学園大学の先生が2019年に書かれたReviewからの抜粋です。




また、米国の会社は「食中毒予防ファージスプレー」を販売しています。これはFDA承認済み(2006年)です
つまり「健康な人がファージを経口摂取することは問題が無い」と厳格な審査で有名なFDAが承認した訳です。





「難治性のクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)」などの特殊な難治性感染症に、試験的にファージを使い効果を認めたという報告は以前から散見されていました(2022年レビュー)。


しかし潰瘍性大腸炎という一般的な疾患への殺し屋ウイルス「ファージ」の応用は、今回が初めてです。




ファージが感染する相手(宿主)は決まっています。宿主(この場合、クレブシエラ)にのみ病原性を発揮します。人には無害ですし、クレブシエラ以外の腸内細菌にも無害です。



問題点としてクレブシエラ菌がファージに耐性を獲得するという懸念がありました。


そこで研究者達は、数千株のファージを調べ41の殺し屋株を見つけ、混合・カクテルとしました。潰瘍性大腸炎マウスに投与した所、耐性はできず潰瘍性大腸炎は緩解しました。また事前に健康人でカクテルの安全性をテストしましたが、副作用はなく、投与したファージが腸内で生着することも確認されました。


そして遺伝子組み換えファージへ(
ファージが凄いのはここから!


ファージは昔から遺伝子組み換え実験で、お馴染みの道具です。ベクター(遺伝子の運び屋)として使われます。どんな遺伝子でも運べることから「DNAライブラリー」の定番でした。

ファージに特定の遺伝子を入れるというのは確立された技術で、今後は遺伝子組み換え技術で「改良されたファージ」が主役になるでしょう(2021年レビュー )。






特にCRISPR-Cas9を組み込んだファージは狙ったDNA配列を特異的に切断します。多くの細菌のDNA配列は「Big DATA」としてライブラリー化されており、任意の狙った菌を殺す配列がデザインできます。

CRISPR-Cas9はゲノム編集に使われる技術ですが本来は細菌がファージを殺すための武器でした。つまり「細菌の最終兵器」を持った、狙った細菌だけを殺し、他の細菌は殺さない「一流の殺し屋」が作れる訳です(2020年自治医科大学より報告)。