ポリープを経ないで発生する癌(De Novo癌)は、内視鏡後・大腸癌の理由(言い訳)になるか?

このテーマは重要なのですが難解なので、取り上げるのを避けていました。2020年の総括として解り易く解説したいと思います。 

古くから大腸癌の発生には(1)ポリープから発生する癌(2)ポリープを経ずに正常粘膜から発生する=De Novo癌、という二つの説がありました。二つの説とも日本の研究者が最初に提唱したこともあり、かっては日本の学会は「激論の場」でした・・
大腸癌の起源の研究の歴史 ポリープ説は東大の武藤博士が英国Morson博士と共に提唱しました(1975年論文)。De Novo説は医科歯科大学の中村博士が提唱しました(1989年「大腸癌の構造」)。
その後、米国を中心に大腸癌の全ゲノム解読が進み、現在は分子生物学者たちは「大腸癌の発生には5つのシステム異常が必要(多段階発癌)」というのを定説としDe Novo説には否定的です(下記)。膨大な物量を駆使した米国のゲノム医学に、日本は押されていますが、基本となる理論は日本の研究者が考えだしたものです。


「起源」の話が何故、重要か?
これは「大腸癌は予防可能な癌か?否か?」という命題と同値だからです。



以下のようなシーンを考えてみましょう。





結論を言いますと「この言い訳は正しくありません」。但し、直ちに「医師に重大な過失があった」とは言えません。

現在の定説は
(1)大腸癌は全て多段階発癌である。正常粘膜から発生するDe Novo大腸癌は存在しない
(2)小児の肉腫(MRT)など「1個の遺伝子異常で発生する真のDe Novo癌」は存在するが大腸では見つかっていない
(3)De Novo大腸癌と考えられていたものは平坦型・陥凹型の癌である。これも多段階発癌である。
(4)内視鏡の解像度が低かった時代は良性の陥凹型(良性Ⅱc)は見つからなかったので、このような誤解が生じたが今日では良性Ⅱcが多く見つかる
(5)理論的に良性Ⅱcを全て検出し切除すれば「De Novo大腸癌」も100%予防可能である。しかし、それは非常に困難である。

良性Ⅱcの完全検出は容易ではないので、上記のような場合に「医師に重大な過失があったか?」という判断は非常に難しい訳です。


個人的には「もうDe Novo大腸癌という用語を使うべきではない。平坦型・陥凹型の癌に統一すべきである」と考えますが「古くからの慣習」として、この用語は残っているだけです。