ポリープの「不完全切除」の問題を考える
はたしてポリープは取り残しなく完全に切除されているのか?
この問題は適切で実用的な測定法が無いために長い間「暗黒大陸の課題」でした。
しかし、最近、国内外で、この問題が注目され報告が相次いでいます(下記文献)
日常的に施行されているポリープ切除の7%〜21%が「不完全切除」であるという報告もあります(文献)
更に・・・Interval Cancer(大腸内視鏡の後に見つかる大腸癌)の20%が、(見落としでは無くて)ポリープの「不完全切除」が原因であろうという報告もあります(文献)
切除検体を病理検査しても「完全切除か否か?」を判定することはできない
これは意外に思われる方も多いでしょう。
理由は二つあります
(1)一つは、検体を回収する時に内視鏡の細い「カンシチャンネル(径3ミリ!)」から「吸引」で回収するためです。回収の際にチャンネル内で検体が機械的に挫滅するのです。切除後に検体を優しく、つかんだまま内視鏡を抜いて回収すれば検体挫滅は起きません。しかし、それですと「1回の内視鏡で切除できるポリープは1個だけ」になります。早期癌を内視鏡切除する場合は、このようにして回収しますが、ポリープをゼロにすることを目指す場合は、内視鏡を抜く回収法は適しません。
(2)二つ目は検体の病理診断の問題です。病理診断は検体を切り出して、「断面」を2次元的に観察して診断します。この時の切り出す線の引き方によって診断が異なる危険性があります(下図)
コールド法は「より大きく、深く切除する」のが時代の流れ
電気メスを使用しないコールド法は偶発症が極めて少ない福音ともいえる「画期的技術」です。しかし「焼かない」ために当初から遺残・再発が最大の問題でした。
最近は、コールド法では遺残・再発をゼロにするために「十分に周囲のマージンを確保して大きく切除すべきである」という意見が主流になりつつあります。
このような概念を「Extended Cold法」と呼ぶ先生もいます(文献)
また「より深く」切除するために「食塩水局注を加えたコールド法(cold EMR)」の報告も盛んです(文献)
電気メスを使用しないコールド法では偶発症が起きにくいために、「それなら遺残のリスクをゼロにするために徹底的に大きく、深く切除しよう」という理論です
このような「第2世代コールド法」では、「控えめなコールド法」に比べると明らかに偶発症の頻度が高くなる傾向があります(自験例でも同様です)・・・ここの是非は医師の間でも議論があるところです
実際の「Extended Cold法」の模様を紹介します
しかしながら・・・いつも、このような綺麗な「目玉焼き」ができる訳ではありません。実際はスネアー(ワイヤー)が、うまくかからずに「分断」「分割」になったり、カンシ(ジャンボ・バイオプシー)を併用することも多いです。
患者さんの立場で言うなら、「ポリープ切除後の写真」をしっかり確認することが最も重要です。
重要なのはポリープではなく右の写真!!!
<文献>
- ポリープの「不完全切除率」は内視鏡を施行する医師により大きく差がある。これは「腺腫発見率」「抜去時間」とは別の独立した「格差」である(2018年文献)
- Polypectomy Competency(完全切除)の標準化が重要である(上記文献へのレヴュー 2018年)
- EMR法はコールド法よりも「不完全切除」の危険性が低い(2018年文献)
- しかしながら全てのポリープ切除をEMR法にする・・・のは現実的に無理である(上記文献へのレビュー 2018年)
- 2200人の「高悪性度ポリープ」を調査。15%が「不完全切除」であり、そのうち20%が「局所再発」した(2017年文献)
- コールド法で切除した「潰瘍周辺」を、EMRで「再切除」して調べると4%に遺残があった(20017年 大阪)。この4%という数字は従来の高周波電流を使用した場合と差は無いと言われています。2018年の日本の多施設・比較前向き試験(CRESCENT study)でも、コールド法は従来の通電切除と比べて不完全切除の危険性は変わらないと報告されています(2018年 文献)
- コールド法で遺残の有無の確認には「切除部の観察」が最も重要である(2017年 上記文献へのレビュー)
- コールド法で遺残の有無の判定に、検体の病理による診断は限界がある(2017年文献)