データの集計法(大腸内視鏡の専門家向けの内容です)
公表データの対象は内視鏡後2年以内の内視鏡後・大腸癌(以下 PCCRC)です
Japan Polyp Study(以下 JPS)は、ポリープの無い人も含め全ての患者さんに「1年後に再検査」をしました。これは臨床的には過剰検診であり開業医には不可能です。「0年〜2年以内」の大腸癌=「平均して1年後」と見なします。
再検査を他院で検査を受ける方も多いでしょうが、その場合でも補償をするという約束なので確実に2年以内のPCCRCが全て集計されます。
しかし「全検査に,正確に2年後に再検査を施行した」という意味ではありません。高リスクの方には半年後の再検査(いわゆるAdditional Colonoscopy)を試行することもあり、逆に低リスクの方には数年後のColonoscopyと毎年の便潜血を勧めています(大腸癌の発見率は内視鏡と便潜血で差が無いことが証明されていますから《NEJM. 2012》、JPSのように「低リスクの方全員に1年後の内視鏡」を施行する必要は無いと考えます)。
科学的な厳密性ではなく、「プラグマティックな実地臨床 でのQuality Indicator」を作るのが目的です。
比較 Japan Polyp Study 当院 の補償システム 対象人数 2787人 年間約2800人で今後、累積していく予定 1年後PCCRC 4人(700分の1) 0人 試行施設 複数の日本のトップレベルの病院 当院単独 統計対象の癌 いずれも浸潤癌(粘膜下層以深)のみ統計。粘膜内癌は統計に入れず
悪性リンパ腫、カルチノイドなどのポリープと関係のない癌は統計に入れず除外規定 aFAP、SPSなどのポリポーシスHNPCC、炎症性腸疾患、、洗浄不良は除外 。過去に大腸癌を手術された方も除外 原則は同じだが 「重度の場合は除外」、「中・軽度の場合は、除外せず。Interval Cancer,Critical Index Lesion既往の方は除外。他の大腸癌既往は除外せず。除外規定は必ず検査の直後に決定し、癌診断後には適応しない。
当院の補償システムはJPSの結果に触発され原因を分析し精度を改良したもので、いわば「後だしジャンケン」ですから成績が良いのは当然の結果です。 私が精度維持のための比較・目標値として(モチベーション)JPSの結果を使わせていただいているだけです。Colonoscopyというのは本来、そういう物であると考えています。
検診間隔の設定を目的にしたJPSは、あえて低リスク(ポリープ=ゼロ)の方も多く入れて「国民の平均的リスクの集団」を解析対象にしています。一方、当院の患者さんの特徴は「高・リスクの方のリピーターが多い」と言えます。これは当院が「保険外診療」であるために「費用が掛かってもいいから高精度な検査を希望する」という方が多いからです。
JPSからの教訓・・・
JPSでは「2年、連続して」内視鏡を施行すると3年目にはPCCRCが減少する傾向が見られました。これは臨床的には過剰検診ですが、「日本の標準的な内視鏡」の2倍の時間をかけ、切除ポリープ数を2倍にすればPCCRCをゼロに出来る可能性が示された訳です。これが当院のシステムの理論的根幹です。
「3年以上のPCCRC」もゼロですが、これは公表する価値はないと考えています。何故なら・・
- 患者さんに誤った安心を与える
例えば、「5年以内の癌発生での請求が無かった」からと言っても患者さんが「5年間、内視鏡を受けなかったが癌にならなかった」ことを意味しません。当院の予約が混んでいるから、他で3年後に受けているからかもしれません(それを完全に把握することはできません)。ゼロであると公表すれば患者さんは「5年間、検査を受けなくても大丈夫なのだ」という誤った安心を持ってしまいます- 医師が過剰検査に走る
長期的PCCRCを少なくする最も安易な方法は「全員に過剰検診を勧める」です。長期のデータも公表するという方針にすると、どうしても医師が過剰検査を患者さんに勧める誘惑にかられます。過剰検査でない合理的な検診間隔で「プラグマティックな実地臨床 でのQuality Indicator」を作るのが目的であり、そうすると「2年以内」が妥当になります。
- PCCRCの多くはハイ・リスクの方から出る
原則としてハイ・リスクの方には1〜2年以内の内視鏡を勧めていますので2年以内を集計すればQuality Indicatorとしては十分であると考えます。- 比較対象が無い
4752名の参加者でスタートしたJPSは「3回目の3年後検査」では760名にまで減少しPCCRCを調査する十分な数が確保できていません。脱落者が多いというのはJPSに限らずPCCRCを調べるProspective研究の大きな問題でありProspective研究で3年以上が調査されている研究は米国のNatinonal Polyp Study(NPS)だけです。米国NPSを比較対象にしてもいいのですが(NPSのデータではPCCRCは年間1000分の1で、直線的に累積し5年後なら5倍になり200分の1になります)、米国と日本の医療事情(特に医療費)は大きく違いますので意味は無いと考えます
「PCCRCーRATE(Retrospective法)」は正確な指標ではないと考えます。何故なら・・
PCCRC-Rateは過去に2度以上検査を受けた方を調査するRetrospective法で算出されます。Retrospective調査は「PCCRCが表面化しにくく、かなり過小評価される」と考えます。PCCRCは過長・癒着で挿入の難しい症例に出易いからです(つまり患者さんが医師を変える事が多い)。実際、当院で見つかる他医療機関のPCCRCは、ほぼ全て挿入困難例です。
またPCCRC-Rateは、公正性に欠けるとも考えます。癌の紹介患者の多い大学病院や新患の多い新規開業医、腕の悪い医師(リピーターが少ない)は、分母(新規大腸癌)が相対的に多く、当院のようなリピーターの割合が多い施設は分母が小さくなるからです。この点では腺腫発見率が最も公正なQuality Indicatorと考えます。
PCCRC-Rateには多くの除外規定がありますが、「除外規定を適応したRetrospective調査」には科学的価値は無いと考えます。多くの論文で使われる除外規定を適応すると当院のPCCRC-Rateは10年以上「ゼロ」ですが意味の無い数字と思っています。除外規定については「大腸癌が見つかってから後で決める」べきではなく「内視鏡検査直後に決めて患者さんに告知すべき」であり、その条件でProspective調査をしないと科学的とは言えません。当院の補償システムはこの方針になります。例えば「S字は憩室が多すぎるのでS字は精度保証対象外です」と説明します。
しかし「Prospective法(Polyp Study)」も正確な調査でないと考えます。何故なら・・
JPSもNPSもProspective法ですが「全検査・調査」では無く、抜き打ち(ブラインド)試験でもない「部分調査」です。ですから医師は「この症例は調査対象だから、しっかり観察するぞ」と気合を入れます。Colonoscopyの精度は医師の気合で大きく変わりますから実態よりも遥かに良い成績が出ます。
私は「Prospectiveな全検査・調査でなければ科学的な価値は低い」と考えますが、それを、どうやって調査するか?これは現実的には大変な作業です。それには「PCCRCへの補償しか無い」というのが私の結論です。
JPSやNPSは一回限りの調査ですが、当院の補償システムは、 今後も全検査に対して永続していきますしPCCRCが発生した後もデータの公表を続けていきます。