M.chelonaeによる自動洗浄機汚染事故について

M.chelonaeは結核菌の仲間で「非定型抗酸菌」といわれます。土壌の中に住み、時に水道水からも検出されます(水道水の殺菌に使われる次亜塩素酸にも抵抗性ということ)。通常は病原性が低く、患者さんが免疫力が低下していた場合以外は、治療の必要はありません。昔は、このような知識が無かったために内視鏡(気管支鏡)検査でこの菌が、検出されると(本当は内視鏡が汚染されていただけなのに)、不必要な治療が、患者さんに行われました。

なぜ消毒に抵抗性か?
M.chelonaeは細胞膜の
脂質が豊富なため、親水性のグルタールアルデヒドは細胞膜を通過して菌内部に侵入できないことがグルタールアルデヒド耐性の理由です。一方、脂肪に富む細胞膜がアルコールで容易に溶解されるからアルコールが有効である、と推測されています。また、M.chelonaeは水道水から入って洗浄機を汚染したと思われます。

この細菌は内視鏡消毒の重要な問題を3つ、提示しています。

第一に、本来「消毒薬」とは「強力な毒薬」ですから真の耐性菌は理論的にはありえないのです。しかし、検査の間におこなう内視鏡の消毒は時間の制約が大きいために薬物が攻撃目標に到達できないと、消毒が失敗するのです(その菌は耐性菌とされる)。すなわち、本来は「高レベル消毒薬」が時間制約が大きいため、高レベルではなくなるということです。

第2に、ハイテク消毒薬全盛の今でもアルコールは、はずせないということです。フタラールも過酢酸もM.chelonaeに有効です。しかし、M.chelonaeよりも更に脂肪が豊富な細菌の場合、やはりもう一度「アルコールのみが有効」となる可能性があります。フタラールも過酢酸も全て水溶性の消毒薬だからです。「古くて安い親油性(両極媒性)消毒薬であるアルコール」の意義は侮れないということです。

第3に水の問題です。ご存知の方も多いでしょうが水道水は決して「無菌」ではありません。M.chelonaeのような「非定型抗酸菌」と緑膿菌のような「非発酵グラム陰性細菌」は、水道水の中でもしっかり増殖します。そして、M.chelonaeのように高度消毒液耐性だった場合・・・・自動洗浄機が、この菌で汚染されるのは当然の結果です。検査、および洗浄機で使用する水を全て「無菌水」を使うという案もありますが、コスト的に難しいです。内視鏡検査では多量の水道水を使用しますから、水道水⇒自動洗浄機汚染という感染ルートを無くすことは、現実的には無理でしょう。

もっとも・・・・このような「水道水内常在菌」が問題になるのは上記のような「不必要な治療(Pseudoepidemic)」の場合で 、胃腸の内視鏡で問題になることはないと考えられています。毎日、水道水から菌を取り込んでいるため、M.chelonaeは我々の胃腸内に既に常在しているという説もあります。

ステリスでは検査開始直前に酸性水+アルコール消毒を追加して、自動洗浄機の耐性菌汚染への対策としています。酸性水、アルコールは常に新品を使いストックしませんから耐性菌汚染の可能性は無い訳です。

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