胃酸を抑える胃薬が大腸癌の原因になる?

初めに
ピロリ菌除菌の普及で胃潰瘍・十二指腸潰瘍は激減しましたが、代わって高齢化に伴い「逆流性食道炎」が増えています。
胸やけを抑えるために胃酸を抑える薬(代表的なのはPPI=プロトンポンプ阻害剤)を長期に飲んでいる方が増えました(世界中の高齢者の5人に1人がPPIを長期的に服用してるというデータがあります)

胃酸抑制剤の弊害
しかし、そもそも胃酸は人に「必要不可欠なもの」です。胃酸が無くなれば、人は毎日、口から摂取している病原体で感染症になります。例えばPPI服用がコレラ感染を重症化するのは有名な話で、他に新型コロナウイルス感染も重症化させます(2022年報告


更にPPIが認知症を増加させる可能性も指摘されています(2023年)。機序は胃酸低下でビタミンB12の欠乏をを起こすという説と、PPIが血液脳関門を通過し脳内酵素に直接作用するという説があります。
PPIは大腸にも影響を及ぼします。便をアルカリ化し腸内細菌を変え、「コラーゲン大腸炎」を起こします

そして最近、注目されているのが「PPIが癌を増加させる」可能性です
最近、東大病院から「強力な胃酸抑制剤が胃癌を増加させる」と報告されました。
これは胃酸を抑えるとガストリンというホルモンが増加するからです。ガストリンは胃の上皮細胞を分裂させる「増殖因子」で胃癌や内分泌腫瘍(カルチノイド)の原因になります

胃底腺ポリポーシス(PPIで発症)

更に最近は、胃癌だけではなく「大腸癌も増加させる」のではないか?という報告があります
まずガストリンは大腸の発癌初期の重要な促進因子という報告()、機序としてRAS遺伝子変異(大腸癌でよく見られる)がガストリン受容体を増加させるからと報告されています
実際に人およびマウスでPPIが大腸癌を増加させるという報告もあります(

以前から「萎縮性胃炎(=ガストリン高値)の人は大腸ポリープが多い」という報告がありましたが、これで謎が解けた訳です。

しかし「胃酸抑制⇒胃癌促進」は、ほぼ定説と言えるのですが、大腸では混沌としています
PPIが大腸癌を増加させないという報告も多く(メタ解析、)、PPIを安易に中止すべきでないと主張しています
更に注目すべきはPPIは脂肪酸合成酵素を抑えて「肥満関連癌(体癌、乳癌、大腸癌)を抑える」という2023年の報告もあります

結論
(1)PPIを長期に服用しつづけるのは有害事象を伴う
(2)PPIが胃癌を増加させるのは「ほぼ確実」。大腸癌を増加させる可能性も報告されているが反論も多い
(3)「胸やけが治まったら休薬をする」頓服的な飲み方が合理的と思われる