「腸内で造られるお酒」が癌の原因か?
妻の悩み
小生の妻が先日のドックで「脂肪肝」が見つかりました。妻は酒を飲まずメタボでもありません。慌ててトレーニングジムの会員になったのですが・・・私が「無駄だと思う。癌予防には糞便移植がいいと思う。何ならドナーになろうか?」と提案したら激怒されました。
お酒は肝臓病(脂肪肝、肝炎)の原因ですが全くお酒を飲まない人にも肝臓病が見つかることがあります(非アルコール性脂肪肝=NASH)。
多くは「肥満」が原因です。
しかし「肥満も無くお酒も飲まないのに」肝臓病になる方がいます。
「腸の中で造られるお酒」が原因ではないか?という説が注目されています
ナゼ腸の中でお酒ができる?
お酒は糖分(お米や麦)を酵母菌が発酵(醸造)して造ります。
同じ働きをする酵母菌は我々の腸内にも生着しています。
我々が食べたお米や麦が腸内で発酵すれば(酸素は不要です)、当然アルコールができる訳です。
我々の腸内では常に微量のアルコールが産生されています。通常は肝臓のアルコール分解酵素により解毒されます。
以下のような理由で「処理能力を超えたアルコール」が産生された時に臨床的に問題になります。
内因性エタノールを増加させる要因
(1)抗生物質の服用
(2)胃酸を抑える薬(PPI)の服用
(3)炭水化物、脂肪の過剰摂取
(4)糖尿病、肝硬変、短腸症候群
腸で作られたエタノールは肝臓に流れ込み肝臓にダメージを与えます
一方、腸の粘膜は直接、腸で作られたエタノールに暴露されますから当然腸の粘膜 にも影響をするはずです。
エタノールがを大腸癌の危険因子であることは確立された事実です
調べましたが現時点では 内因性エタノールと大腸がんとの関係を調べた 報告はありませんでした
(今後の重要な研究対象です)
文献
2022年Natureの報告
腸内細菌由来の内因性エタノールが「非アルコール性脂肪肝(NASH)」の原因であることを実験的に証明
2023年のReview
非飲酒時の健康人の血中アルコール濃度は0ー0.7nmol/lの間で変動するが糖尿病または肝硬変の患者では、さらに高いレベルが観察される
エタノールを産生する菌として、最も重要なのはカンジダと酵母(真菌、カビの一つ)。次に高エタノール産生型のクレブシエラ菌。
ABS(Auto-brewery syndrome 内因性エタノールが高濃度になりいつも酔った状態になる)の治療では、これらの菌をターゲットにした抗生剤の投与が重要。
また炭水化物の過剰摂取はアルコール産生を高める(炭水化物がアルコール=発酵の原料だから)ので糖質制限食も効果的2023年の報告
ABS(Auto-brewery syndrome) 自家醸造症候群(2021年のReview)
内因性エタノールが過剰に産生される方がいます。お酒を飲んでいないのに酔っぱらた状態になります。仕事や日常生活に支障を来すので患者さんには深刻な病態です。
抗真菌剤と糖質制限食が基本的な治療法ですが、治療抵抗例には「糞便移植」が有効との報告もあります。
2023年報告
糖尿病、肥満、短腸症候群、クローン病の方はABSのリスクが高い
糖尿病では腸内の食餌の通過時間が長いこと、免疫低下でカンジダが増殖することがABSの誘因になる
2022年の報告
カンジダがは炭水化物の中でも特に果糖を醸造する傾向があり、これは「非アルコール性脂肪肝」の人で、より顕著である