内視鏡で見えない「大腸の進行癌」policy&FAQ

始めに
通常、大腸の進行癌の認識は容易であり内視鏡で見えないことはありません。しかし癌が腸の外側に広がる場合(管外性)は、かなり進行しても内視鏡所見は「異常無し」になることがあります。

代表的な「管外性大腸癌」は以下の3タイプがあります
(1)肛門腺癌
(2)憩室内癌
(3)虫垂癌

(1)肛門腺癌
「肛門腺」は動物では重要な器官ですが、人では退化して存在意義の無い器官です。しかし、この退化器官が、しばしば病気の原因になります。雑菌が侵入し化膿すると「肛門周囲膿瘍」となり、感染が慢性化すると「痔瘻」になります。更に、ここにHPVウイルスが入り込むと腺癌(肛門腺癌)を発症します(文献)。現在、この癌はHPVワクチンで予防できると考えられています。

この癌は、昔から「内視鏡で解らない癌」の代表として、教科書には必ず記載があります。表面が正常粘膜で被われており、腫れた痔核と区別がつかないのです。

(2)憩室内癌
憩室内に発生した癌が腸の外側に進展し腹部全体に広がったのに内視鏡では全く癌が指摘できない(憩室炎により腸が狭くなっている所見のみ)という現象が、数多く報告されています。
これは憩室が筋層を欠いているために、ここに癌ができると容易に深部(腸の外側)に浸潤するため、粘膜面に異常が出にくいからだろうと考えられています。

憩室内癌は、次に述べる「虫垂粘液腫瘍」に似た、独特な生物学的特性があるように思われます。いずれも慢性的な炎症を母地にしていると思われますので、Colitic Cancer(大腸炎に発症する癌)に近いのかもしれません。今後の分子生物学的解明が待たれます。

(3)虫垂癌
「虫垂粘液腫瘍=Appendiceal Mucinous Neoplasms (AMN)」と呼ばれる独特な腫瘍は、病理学的には悪性度が高くないのに早期から虫垂の壁を超えて、腹腔内に広がります。上記の憩室内癌と非常に似ており、虫垂の深部に発生することが多く、内視鏡では腫瘍を確認できません。

肺癌は胃癌・大腸癌と異なり組織検査が容易にできません。病理診断無しで手術が行われることも通常です。最近、リキッド・バイオプシー(血中循環腫瘍細胞のDNA解析)を肺癌診療の主役にするという意見が急速に普及しています。
全く、同じ理由から、最近の分子生物学的知見を踏まえ「リキッド・バイオプシーで虫垂AMNの診断を行う」という報告が出てきました。非常に興味深い研究で、今後は肛門腺癌や憩室内癌などの他の「暗黒大陸の大腸癌」にも応用されると思われます。

最後に患者さんに有益な情報をまとめたいと思います
(1)大腸内視鏡をすれば進行癌が確実に解るという先入感は間違いです。
(2)異常な症状が続くなら内視鏡だけで終わりにせず、MRI・CT・PETなどの画像検査やバイオマーカー検査も検討すべきです。特に肛門部不快感(痔)のある方、憩室の多い方、虫垂を切除していない方、は要注意です。