内視鏡で肛門癌の早期発見・予防は不可能policy&FAQ

始めに
肛門癌はHPVウイルス感染が原因で、かっては「男性同性愛者に特有の癌」とされていましたが、米国では、女性に増加し、女優のファラフォーセットが死亡した頃から「女性の癌」と、認識されるようになりました。

当院で発見された早期の肛門癌の例。しかし、このような幸運は「偶然の産物」にしか、過ぎません。


以前、書きましたが癌の早期発見のために内視鏡を受けるのはナンセンスです。

理由は単純明快で、早期癌の期間は極めて短いため、内視鏡での発見は「偶然の産物」だからです。
前癌病変の発見と除去」こそが、内視鏡の第一の意義になります。


良性の前癌病変とは大腸癌でしたらポリープです。では、肛門癌も、ポリープが前癌病変なのでしょうか?

NOです。AIN(=Anal Intraepithelial Neoplasia)と呼ばれる病変が肛門癌の前癌病変です。

最近の研究により「AIN⇒肛門癌」のルートが解明され、「大腸ポリープ⇒大腸癌」とは違う病態が明らかになりました。

(1)AINは内視鏡では解らない
癌にかなり近い「High Grade AIN」では異常血管が出現するので内視鏡(NBI)で認識できます。しかし初期の「Low Grade AIN」ではNBIでも認識不可です(下写真)。

(2)AINを切除しても肛門癌を十分に予防できない。
内視鏡でAINを凝固・焼却しても再発率が高く、治療を繰り返している内に癌へ進展するケースが多いということが問題視されています。AINの多くは多発性であり、目で見える大きなAINを切除しても、周囲にウイルス感染細胞が存在する以上、再生粘膜が再び感染するので意味が無い訳です。

(3)AINの切除以上に重要なのは免疫力
実は我々は皆、一度はHPVに感染していると言われています。しかし癌になるのは、極一部の人で、免疫が低下している方です(AIDSの方や、免疫抑制剤を使用している方)。子宮頸癌や肛門癌の患者さんと同じ数だけ陰茎にHPVが感染した男性がいるはずですが、実際は陰茎癌は非常に稀です。免疫によるウイルスの排除が最も重要だと解ります。AINもまた、進行するのは極一部で、大部分は免疫で排除される(自然治癒する)ことが解ってきました。
AINの切除に免疫賦活剤やワクチンを併用すると非常に有効でイミキモド(商品名べセルナ、アルダラ、持田製薬)は塗り薬なのですがインターフェロン刺激作用がありHPV排除を促進します。AINの切除にイミキモドやHPVワクチンを併用すると再発が激減することが解りました(文献)。

最後に患者さんに有益な情報をまとめたいと思います

(1)内視鏡で初期肛門癌(AIN)の早期発見は困難です。AINの切除も、効果が少なく、AINは腫瘍というよりウイルス感染症と考えるべきです。

(2)有効な対策は検診では無く、HPVワクチンです。

(3)ワクチンの接種は個人の問題ですが、「ワクチンを打たない肛門性交」は後に「極めて高い代償を払うことになる」ことを認識すべきです。