発生学の基礎(The Cell 21章の要約)

3つの体軸がある 「頭尾軸」「背腹軸」「動物・植物軸」

「段階的誘導(下図)」により軸に沿った分化が作られる



「頭尾軸」は卵の持つ「頭尾勾配」から始まり「段階的誘導」を繰り返し、最終的にはホメオボックス遺伝子が永続的なCell Memoryを作り「体節」が形成される

Cell Memoryの中心的な機序は「転写調整因子の正のフィードバック」である。ホメオボックス遺伝子はそれ自身の転写を上げる。一旦、あるホメオボックス遺伝子が高発現した細胞の子孫は永続的に同じホメオボックス遺伝子を高発現し続ける。更に、これにクロマチンの構造変化が加わることで記憶が強固になる。クロマチン構造を変えるのはPolycombとTrithoraxであるが、この遺伝子を破壊しても正常な発生は起こる。つまり主役は「転写調整因子の正のフィードバック」でありクロマチンは「補強」である。



「動物・植物軸」とは?
原腸形成で、内側に湾入した内胚葉を「植物極」、外側の外胚葉を「動物極」と呼ぶ。この用語は歴史的な慣習で「動物・植物」とは何の関係も無い



「背腹軸」「動物・植物軸」は「分泌型シグナル・タンパクの濃度勾配」で決まる

「細胞A」は本来なら「腹部の皮膚」になるはずだが・・・これを取り出して「高濃度Nodal」下で培養すると消化管なる。
このような知見の積み重ねにより、iPS細胞を、希望する臓器の細胞へと分化させる技術が確立された

「細胞A」を「高濃度Nodal」下で培養すると「消化管の細胞(正確に言うなら腸の陰窩にある腸幹細胞と同じ細胞)」になる。しかし、腸の上皮は多様な細胞が「配列」している(下図)。このような「異なった分化状態の細胞の緻密な配列」は「分泌型シグナル・タンパクの濃度勾配」だけでは無理である。これは、どのようにして作られるか?


その答えはNOTCHによる側方抑制にある。側方抑制により均一な細胞集団の中に特殊な細胞が生まれる。

陰窩の発生ではNOTCHによる側方抑制が繰り返し使われて細分化がおこなわれる。また「幹細胞の維持」にも側方抑制は不可欠である



このようにして生まれた「周囲と違う特別な細胞」は「分化のマスター遺伝子(転写調節因子)」により永続的なCell Memoryが作られる。
例えば腸の分泌細胞(杯細胞)ではATOH1がマスター遺伝子になる(⇒粘液の分子生物学)。このようなマスター遺伝子は「使い回し」が普通で、脳ではATOH1は神経細胞のマスター遺伝子である。


再生工学の基礎(The Cell 22章の要約)

プラナリアの再生
全身が「万能幹細胞」から成る⇒1個の細胞から全身を再生できる

イモリの再生
万能性は無く、筋肉から筋肉のみが、表皮からは表皮のみが再生されて切断肢が再生される。魚類や両生類は四肢だけでなく脳、脊髄、目を除去しても完璧に「再生」できる。

哺乳類の脳で見つかった「再生能力」
長年、哺乳類の脳の再生は無いと信じられていたが・・・まず,鳥で繁殖期に脳の細胞が大量に置き換わることが見つかり、次いで人でも「記憶を司る海馬」で毎日1400個(年間で全体の1.7%)の神経が再生(新旧交代)していることが解った。こうして「神経幹細胞」が発見された
更に「神経幹細胞」には可塑性(適応能力)があることも解った。(例)海馬から取り出した幹細胞を嗅体に移植すると嗅覚神経に分化する

核移植は「再プログラム」を起こす
これは受精卵の細胞に「核を再プログラムする因子」が存在することを意味する。これがOSKM因子(山中因子)の正体である



OSKM因子(山中因子)導入後にiPS化までに起こる核内の変化

最終的には「転写調整因子の正のフィードバック」により内在性のOSKM因子が永続的にONになることで安定したiPSが確立される


iPS細胞(またはES細胞)に発生と似たシグナルを与えれば正常の発生と同じ様に分化するはずである
しかし・・・人の正常な発生には1年近くかかる。臨床応用では、これをもっと短い期間で再現しなければいけない。分化が不十分なiPS細胞を個体に移植すると奇形種が発生することも解っている。