大腸癌最新情報

 大腸検査で使う青い色素は安全か?


青い色素を使うと平坦な病変の発見率が著明に良くなります。色素内視鏡は精密な検査には必須の物です。

ところで・・・使われる色素には二つのタイプがあります




実際の写真(文献より引用)
顕微鏡で検体を観察した写真ではなく,検査中の患者さんの体内の写真です。赤い点が細胞核で、メチレンブルーで染色されているのが解ります)


結論を先に書きますと・・・
当院では、開院以来、メチレン・ブルーは1件も使用していません。
当院で使用した色素は全て、インジゴカルミンで今後も、インジゴ・カルミン以外は使用するつもりはありません。

他にクリスタルバイオレット・トルイジンブルーなどありますが、全て「核内に入るタイプ」であり当院では使用しません

なぜ、当院は「核を染める色素」を使用しないか?

安全性に疑問があるからです。
日本では問題視されていませんが・・米国では「発癌性が問題視」されています。(下記論文)。核を染色する以上、これは分子生物学的に当然の話で、日本の医師の危機意識が低すぎるだけだと思います。


論文リスト(古い物から

  1. 1989年 論文 メチレンブルーはDNAに直接結合する。ヌクレオチドとキレート結合する(これが核が染まる理由です。現在の分子生物学者なら、この論文だけでメチレンブルーは危険と判断するでしょう)
  2. 2000年論文  細菌での実験。メチレンブルーはDNA修復酵素を阻害する(DNA変異を起こしやすい。)
  3. 2002年 論文 人培養細胞でメチレンブルーはDNAを障害する(comet assay)
  4. 2003年 Lancet 胃カメラで使用するメチレンブルーによりバレット食道の発癌が促進される可能性がある
  5. 2007年 GUTの重大報告 メチレンブルー使用の大腸内視鏡を受けた10人の患者のうち、8人に高レベルのDNA異常が検出された。インジゴカルミンではDNA異常は検出されなかった。遺伝子が不安定な大腸癌のハイ・リスクグループの患者にはメチレンブルーを使うべきではない
  6. 2007年 米国内視鏡学会(ASGE)の声明上記論文が専門家に大きな衝撃を与えたことに対して「メチレンブルーに発癌性があるという明確な証拠は現時点では無い」と声明。賛否両論の論争となる
  7. 2008年の重大報告 事態を重く見た米国国家毒性プログラム(National Toxicology Program 、NTP)はメチレンブルーの発癌性を哺乳類を使って本格的に調査。発癌性は、強い順に(1)clear evidense (2)some evidence (3)equivocal evidence(4) no evidenceに分けられるが「メチレン・ブルーはSome〜 Equivocalである」との結論を出し、メチレンブルーの発癌性に関する論争に終止符が打たれた
  8. 2007年 BBRC 色素性乾皮症の患者はメチレンブルーによるDNA障害を修復できない
  9. 2009年論文 内視鏡の光源にフイルターをつけることでメチレンブルーによるDNA障害を軽減できるかもしれない
  10. 2010年 論文 胃カメラでメチレンブルーを胃内に散布することでDNA毒性を利用してピロリ菌を除菌できるかもしれない
  11. 2012年 論文 上記と似た内容。リステリア菌の除菌にも有効かもしれない
  12. 2012年のAGA(米国消化器病学会)のバレット食道ガイドラインでは発癌性を考慮しメチレンブルーの使用に「decreasing enthusiasm」と記載
  13. 2014年 論文 メチレンブルーはP53遺伝子に結合して発癌性を表す。この作用には銅イオンによる酸化が重要
  14. 2016年 論文 メチレンブルーのメダカへの毒性について
  15. 2016年 米国内視鏡学会(ASGE)のバレット食道ガイドライン 効果の低さとDNA毒性を考慮しメチレンブルーの使用を推奨しないGiven its lack of efficacy and potential risks, its use for this purpose cannot be recommended