大腸内視鏡で使う青い色素は安全か?

青い色素を使うと平坦な病変の発見率が著明に良くなります。色素内視鏡は精密な検査には必須の物です。

ところで・・・使われる色素には二つのタイプがあります(下図)


結論を先に書きますと・・・
 当院では、開院以来、メチレン・ブルーは1件も使用していません。当院で使用した色素は全て、インジゴカルミンです。2018年にメチレン・ブルーを使う新しい医療器具が複数、発売されます(下記)。しかし、当院は今後も、インジゴ・カルミン以外は使用するつもりはありません。

なぜ、当院はメチレンブルーなどの「核を染める色素」を使用しないか?

・・・・・・安全性に疑問があるからです。もちろん人での発癌性が証明された訳ではありません(でなければメーカーも発売しません)。しかし多くの論文がその危険を警告しています(下記・論文リスト)。もしかしたら、それらは過剰な不安かもしれません。私はメーカーが自己責任で販売することに異を唱えるつもりは毛頭ありません。癌が見つかり大学病院で内視鏡切除(ESD)を施行するような場合、メチレン・ブルーを使った拡大観察は非常に重要で多くの患者さんの福音になるでしょう。しかし当院のように「健康な方の検診」で「核を染める観察」の必要性は無いというのが当院の方針です。当院は今後も「核を染める色素」は絶対に使用しません。


2018年に発売が予定されているメチレン・ブルーを使う新しい医療器具
(1)Methylene Blue MMX(メチレンブルーの経口徐放剤) 発表記事
(2)超拡大内視鏡(生体内で顕微鏡と同じレベルの内視鏡観察ができる・・・下図写真) 発表記事



生体内で「細胞核」が色素で強く染色されているのが解ります。
日本消化器内視鏡学会雑誌 59 巻 (2017) 2 号 207-218  熊谷 洋一先生(埼玉医科大学総合医療センター)の論文より引用させていただきました。

他にクリスタルバイオレット・トルイジンブルーなど何種類かありますが、基本的に全て「メチレン・ブルーと同じ核内に入るタイプ」です。細胞核は異物が侵入しないように厳重にシールドされています(核膜と核膜孔複合体)。核内は高分子が高密度に凝集したファクトリー集合体で、核内に侵入する異物は全て、何らかの変異原性を有します。

論文リスト(古い物から

  1. 1989年 論文 メチレンブルーはDNAに直接結合する。ヌクレオチドとキレート結合する(これが核が染まる理由です。現在の分子生物学者なら、この論文だけでメチレンブルーは危険と判断するでしょう)
  2. 2000年論文  細菌での実験。メチレンブルーはDNA修復酵素を阻害する(DNA変異を起こしやすい。)
  3. 2002年 論文 人培養細胞でメチレンブルーはDNAを障害する(comet assay)
  4. 2003年 Lancet 胃カメラで使用するメチレンブルーによりバレット食道の発癌が促進される可能性がある
  5. 2007年 GUTの重大報告 メチレンブルー使用の大腸内視鏡を受けた10人の患者のうち、8人に高レベルのDNA異常が検出された。インジゴカルミンではDNA異常は検出されなかった。遺伝子が不安定な大腸癌のハイ・リスクグループの患者にはメチレンブルーを使うべきではない
  6. 2007年 米国内視鏡学会(ASGE)の声明上記論文が専門家に大きな衝撃を与えたことに対して「メチレンブルーに発癌性があるという明確な証拠は現時点では無い」と声明。賛否両論の論争となる
  7. 2008年の重大報告 事態を重く見た米国国家毒性プログラム(National Toxicology Program 、NTP)はメチレンブルーの発癌性を哺乳類を使って本格的に調査。発癌性は、強い順に(1)clear evidense (2)some evidence (3)equivocal evidence(4) no evidenceに分けられるが「メチレン・ブルーはSome〜 Equivocalである」との結論を出し、メチレンブルーの発癌性に関する論争に終止符が打たれた
  8. 2007年 BBRC 色素性乾皮症の患者はメチレンブルーによるDNA障害を修復できない
  9. 2009年論文 内視鏡の光源にフイルターをつけることでメチレンブルーによるDNA障害を軽減できるかもしれない
  10. 2010年 論文 胃カメラでメチレンブルーを胃内に散布することでDNA毒性を利用してピロリ菌を除菌できるかもしれない
  11. 2012年 論文 上記と似た内容。リステリア菌の除菌にも有効かもしれない
  12. 2012年のAGA(米国消化器病学会)のバレット食道ガイドラインでは発癌性を考慮しメチレンブルーの使用に「decreasing enthusiasm」と記載
  13. 2014年 論文 メチレンブルーはP53遺伝子に結合して発癌性を表す。この作用には銅イオンによる酸化が重要
  14. 2016年 論文 メチレンブルーのメダカへの毒性について
  15. 2016年 米国内視鏡学会(ASGE)のバレット食道ガイドライン 効果の低さとDNA毒性を考慮しメチレンブルーの使用を推奨しないGiven its lack of efficacy and potential risks, its use for this purpose cannot be recommended