内視鏡の消毒は非常に重要な問題です。かなり専門的になりますが以下にF&Q形式で詳しく説明します
検査前に感染症の血液検査をすべきですか?
これは以前グルタール アルデヒドの時代の名残です。グルタール アルデヒドでは消毒に時間がかかるため全検査に消毒するのは大変なので検査前の血液検査で病気の人を振り分けてグルタールアルデヒドを選択的に使っていた訳です。しかし、血液検査でわからない病気がたくさんありますから、一部の病気だけ調べた検査の結果で消毒法をわけるのでなく「全員に対し完全消毒する」というのが正しい方法です。「血液検査陽性者は後回しにして消毒」という方法は欧米では人権問題と考えられおこなわれていません
内視鏡は「完全無菌に滅菌」されるのですか?
いいえ。精密機械である内視鏡を高温高圧滅菌することはできませんから、本当の意味で「完全無菌に滅菌」はできません。もともと口腔内や腸内には多数の雑菌が住んでおり、消化管は感染防御力をもっていますから「完全無菌」にする意味はありません。感染症を引き起こす病原体を全て死滅させるレベルの消毒で内視鏡機器に使える最も強い消毒法(高レベル消毒といいます)で内視鏡を消毒すべきである、というのが世界共通のガイドラインです。ただし処置具(粘膜を傷つける器具;後述)は「高レベル消毒では不可。完全無菌(高温高圧滅菌)が必要」とされています。処置具は針やメスと同じで感染を起こす危険が極めて高いからです
どのような消毒液が高レベル消毒に使われるのですか?
前述のようにグルタールアルデヒドが歴史が長く「最も信頼されている消毒薬」です。最近の新しい方法としては(1)フタラール(2)過酢酸(3)酸性水の3つがあります。他の安価な消毒液(ヒビテンなど)は高レベル消毒ではありません。後述するように検査前の血液検査で患者さんを振り分けて肝炎ウイルス陽性者は高レベル消毒、他の方は安価な消毒液で・・・という方法は間違いです。なおグルタールアルデヒドとともにフタラールと過酢酸は内視鏡学会で「高レベル消毒として正式承認」されています。酸性水は「正しい使用に専門的知識が必要」との注釈付きの承認となっています。
どの消毒液が一番理想ですか?
結論を言うと「理想的で完璧な高レベル消毒液」はありません。全て、何らかの「短所」をもっています
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長所 |
短所 |
グルタール
アルデヒド |
歴史が古くデータが豊富。学会で正式承認 |
消毒に時間がかかる。人体への毒性。 |
フタラール
過酢酸 |
長時間安定。学会で正式承認 |
高価(1回分数万円) |
| 酸性水 |
安価(1回分数百円)。学会で注釈付きで承認 |
短時間しか安定でない。有機物の混入で効果が半減・結核菌に弱い。内視鏡が酸のため、腐食する。 |
上記の消毒液で消毒されていれば大丈夫ですか
ここが一番重要な点です。残念ながら答えはNOです。医師が消毒液の短所をよく理解していて正しい使い方をすれば大丈夫です。しかし誤った使い方をすればむしろ有害(水道水で洗った方がまし)になります。
フタラール、過酢酸の短所とは
フタラール、過酢酸は高価で安定性が高いため、通常は同じ消毒液を「反復使用」します。そして効果が無くなるころに消毒液を交換します。ここが「落とし穴」です。安定性が高いといっても1〜2週間の時間が経つか30回も消毒に使うと効果が低下します。(低下の最大の原因は内視鏡に付着した水の混入による消毒液の希釈です)。気前良くまめに消毒液を交換するならよいのですが、交換をけちった場合は・・・・・反復使用された消毒液は逆に感染の原因になります
酸性水の短所とは
酸性水はフタラール、過酢酸と正反対で安価で短時間しか安定でないため、電気分解した「作りたての新しい消毒液」を毎回使用します。「反復使用」することはありません。しかし、上の表にあるように「注意事項」が多くあります。そのため学会では「酸性水について十分な知識を持った医師が正しく使うべき」と「注釈付きで承認」となっています。
過去の内視鏡による感染事故はどのようなものですか?
ピロリ菌、緑膿菌、サルモネラ菌、肝炎ウイルス、などが報告されています。正式な論文では感染の頻度は180万の1といわれています。しかし、これは「感染が証明された件数」であって、内視鏡専門家の多くは「実態ははるかに多いだろう」と考えています。事故の原因は大きく2つ考えられています。一つは、前述のような「誤った消毒液の使い方」です。そして、もう一つが「処置具」で、実は後者が「最大の原因」です。
感染の最大の原因は処置具なのですか?
処置具とは細胞検査やポリープ切除をおこなう器具です。これらは粘膜を傷つけますからメスや注射針と本質的に同じものです。内視鏡本体よりも遥かに厳しい消毒(滅菌と言います)が必要です。前述の高レベル消毒では不十分です。
処置具はどのように消毒されるのですか?
処置具の消毒法は2つあります。
| オートクレーブ(高圧高温滅菌) |
日本の学界で推奨。
日本の標準的な方法 |
| 一回ごと使い捨てにする |
米国で標準的な方法 |
どちらがよいのですか?
通常はオートクレーブで生き残る病原体はいないので「オートクレーブで全く問題無い」とされていました。しかし、米国では(1)処置具を完全に滅菌できない人的、機械的なエラーの可能性(2)オートクレーブの反復により処置具が劣化し最高の状態で検査・切除手術ができない(3)注射針はオートクレーブしても肝炎の感染事故を起こしたことがある。処置具は針やメスと同じ扱い(使い捨て)にすべき(4)「狂牛病の原因のプリオンはオートクレーブでは不活化されない・・・・等の理由で「一回ごと使い捨て」が標準的です。このため医療費が日本よりはるかに高額になっています。
(胃カメラでしたら日本で3割負担の方でしたら1万円以下ですが米国では10万円近くかかります)。しかし最近は日本でも「お金がかかってもいいから完璧な消毒を」という希望が多く「一回ごと使い捨て」が徐々に普及しています。
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| 昔、資源が乏しかった頃、日本でも注射針やメスが消毒後、再使用されていました。しかし、今日の日本の病院では注射針やメスは「1回限り使い捨て」が標準です |
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| 内視鏡処置具(細胞検査をする器具)の先端部です。粘膜には神経が無く痛みを感じないため、気にならない方が多いのですが処置具は、実は注射針やメスと、同じものであることがわかります |
新聞で最近「使い捨て用の処置具を再利用」が取り上げられましたが?
使い捨てが普及した米国ですが、今度は「使い捨て器具を再使用」する病院が増えてきて問題となりました(これは病院に大きな利益をもたらします)。その結果、「使い捨て器具の再使用」に対し罰則が設けられることになりました。日本でも学会の調査で、日本の医療施設の多くが「コストを下げるために使い捨て用の処置具をオートクレーブして再利用している」という実態が明らかになり新聞でも報道され問題になりました。しかし日本では、まだ法的な規制はありません。
日本の病院の実態は?
学会でおこなったアンケート調査結果です(これは医師の自主的な回答です)
- 内視鏡を全検査1件ごとに高レベル消毒している・・・・83%のみ
- 処置具を全検査1件ごとにオートクレーブしている・・・・55%のみ
- 使い捨て用の処置具を再利用している・・・・・94%(内視鏡手術の場合)
- 使い捨て用の処置具を再利用している・・・・・50%(内視鏡検査の場合)
なぜ消毒方法が徹底されないのか?
日本では、全ての患者さんが保険診療の範囲内で平均的な医療を受けるべきと考えられてきました。その結果、内視鏡の消毒を厳格におこなう医師ほど利益が少なくなり、消毒を「手抜き」する医師ほど利益を多く得るという構造になりました。この結果が上記のように内視鏡学会のアンケートで明らかとなり新聞でも取り上げられた内視鏡消毒の実情です。
<患者さんの質問から>
胃カメラ検査直後より腹部に若干の痛みを感じ微熱と,腹部(胃のあたり) の痛み,ほとんど水のような下痢の状態です。
検査に行った医者の所に行きましたら,風邪であろうとのことで・・・。 消毒に関しては血液検査を行い,疑いの在る患者(肝炎等)の 検査の後は良く消毒し,その他は普通の消毒を行っているとの
説明を受けました。 この病院の洗浄の方法は適切でしょうか。
<回答>上記のごとく、この病院の消毒方法は誤りです。
内視鏡の消毒は十分な知識と経験が必要な「医師の技術」なのです。この問題を真剣に考え、常に勉強し、よりよい最新の方法を導入している医師に検査を受けるべきです。 |