内視鏡の消毒は大丈夫か?

胃カメラで病気に!
1990年代,内視鏡学会で「胃カメラ後急性胃炎」という病気が問題になりました。これは全く健康は人が胃カメラを受けた後に発生する急性胃炎をいいます。これは実は胃カメラを介してピロリ菌が患者さんから患者さんへ移ることが原因です。ピロリ菌は胃炎,潰瘍の原因です。

なぜこのようなことが起きたのでしょうか?
後述するように知識の不十分な医師が「間違った消毒法」で消毒したためです

内視鏡は「完全無菌に滅菌」されるのですか?
いいえ。精密機械である内視鏡を高温高圧滅菌することはできませんから、本当の意味で「完全無菌に滅菌」はできません。もともと口腔内や腸内には多数の雑菌が住んでおり、消化管は感染防御力をもっていますから「完全無菌」にする意味はありません。感染症を引き起こす病原体を全て死滅させるレベルの消毒で内視鏡機器に使える最も強い消毒法(高レベル消毒)で内視鏡を消毒する、というのが世界共通のガイドラインです。

内視鏡の消毒はどのようにするの?
下のような消毒液に浸潤しておこないます。そのため内視鏡は完全防水仕様になっています

  長所 短所
グルタール
アルデヒド
歴史が古くデータが豊富。学会で正式承認 消毒に時間がかかる。人体への毒性がある。
フタラール
過酢酸
長時間安定。学会で正式承認 高価(1回分数万円で安定性が高いため、通常は同じ消毒液を「反復使用」します。そして効果が無くなるころに消毒液を交換します。ここが「落とし穴」です。安定性が高いといっても限界があり医師が交換をけちった場合は無効になります
酸性水 安価(1回分数百円)。不安定なため「作りたての新しい消毒液」を毎回使用します。「反復使用」することはありません。学会で注釈付きで承認 短時間しか安定でない。有機物の混入で効果が半減・結核菌に弱い。内視鏡が酸のため、腐食する。

 

過去の内視鏡による感染事故はどのようなものですか?
ピロリ菌、緑膿菌、サルモネラ菌、肝炎ウイルス、梅毒、結核、AIDSなど「事実上、ほとんどの伝染病」が報告されています。

事故の原因は大きく2つ考えられています。一つは、前述のような「劣化した消毒液の再使用」です。

そして、もう一つが「処置具」で、実はこれが「最大の原因」です。処置具とは細胞検査やポリープ切除をおこなう器具です。これらは粘膜を傷つけますからメスや注射針と本質的に同じものです。内視鏡本体よりも遥かに厳しい消毒(滅菌と言います)が必要です。上記の薬液浸潤では不十分です。

 

昔、資源が乏しかった頃、日本でも注射針やメスが消毒後、再使用されていました。
しかし、今日の日本の病院では注射針やメスは「1回限り使い捨て」が標準です
内視鏡処置具(細胞検査をする器具)の先端部です。粘膜には神経が無く痛みを感じないため、
気にならない方が多いのですが処置具は、実は注射針やメスと、同じものであることがわかります

 

処置具はどのように消毒されるのですか?
処置具の消毒法は2つあります。

オートクレーブ(高圧高温滅菌) 現在の日本の標準的な方法(日本は医療の経済格差は禁止されており、この方法が最も廉価なのです)
一回ごと使い捨てにする 欧米の「高級な医療機関」で標準的な方法(ただし欧米は医療の経済格差が非常に大きいです)


理論的には・・・・オートクレーブで生き残る病原体はいないので「オートクレーブで十分」とされていました。

しかし、(1)処置具を完全に滅菌できない人的、機械的なエラーの可能性…実際に注射針をオートクレーブして再利用していた頃は肝炎の感染事故が頻発しました(2)狂牛病の原因のプリオンはオートクレーブでは不活化されない・・・・等の理由で「一回ごと使い捨て」が最も理想とされています。

しかし医療費が高額になります。 胃カメラでしたら日本で3割負担の方でしたら1万円以下ですが「米国の高級な医療機関」では10万円近くかかります。

(もちろん欧米にも「無料の医療機関」があります。そのような施設では内視鏡の消毒は、ほとんど考慮されていません。水道水で洗っているだけという噂もあります)。

最近は日本でも「お金がかかってもいいから完璧な消毒を」という希望が多く「一回ごと使い捨て」が徐々に普及しています。

 

<患者さんの質問から>
胃カメラ検査直後より腹部に若干の痛みを感じ微熱と,腹部(胃のあたり) の痛み,ほとんど水のような下痢の状態です。 検査に行った医者の所に行きましたら,風邪であろうとのことで・・・。 内視鏡検査前に血液検査を行い,感染の疑いの在る患者(肝炎等)の 検査の後は良く消毒し,その他は普通の消毒を行っているとの 説明を受けました。 この病院の洗浄の方法は適切でしょうか。

<回答>内視鏡検査前の感染症の血液検査は無意味で学会も「好ましくない」という見解です
検査前血液検査は以前グルタール アルデヒドの時代の名残です。グルタール アルデヒドでは消毒に時間がかかるため全検査に消毒するのは大変なので検査前の血液検査で病気の人を振り分けてグルタールアルデヒドを選択的に使っていた訳です。しかし、血液検査でわからない病気がたくさんありますから、一部の病気だけ調べた検査の結果で消毒法をわけるのでなく「全員に対し完全消毒する」というのが正しい方法です。「血液検査陽性者は後回しにして消毒」という方法は欧米では人権問題と考えられおこなわれていません(文責:本郷メデイカルクリニック 鈴木雄久)