内視鏡・COM・医療事故カンファレンス |
車の普及により私たちの生活が向上しましたが,交通事故という不幸も生まれました。
内視鏡により癌が早期で見つかり,またお腹を切ることなく内視鏡で病気の治療できるようになりました。
多くの方の命を救っている内視鏡ですが,一方では内視鏡による不幸な事故も報道されています。
この企画は一般の方に「最小のリスクで最大の効果」のある医療を受けていただきたいという趣旨でつくりました。
いずれも実際にあった事例を医師仲間の風評として入手した情報に基づいていますが,当事者ではありませんので,細部に不正確な点があります。
あくまでも「専門家の一般論」としてお読みください(文責:本郷メデイカルクリニック 鈴木雄久)
|
大腸内視鏡で平坦なポリープを切除し穿孔し緊急手術へ
60歳 男性,内視鏡で肝臓の近くの大腸の屈曲したところに3cmほどの平坦なポリープがあり。入院の上,内視鏡による切除(液体を注入して盛り上げて切除する粘膜切除術EMR,下図)がおこなわれた。屈曲した場所にあるため,なかなか切除できず,処置は1時間以上におよんだ。手術直後は特になんともなく次の日,食事を開始した。夜間,激しい痛みのため緊急手術となった。ポリープ切除部に1cmほどの穴が開き,便が腹腔内にもれて腹膜炎を起こしていた。穴のところを局所切除し,手術を終了した。10日後,無事退院した。
なぜ事故が起きたか?
大腸のポリープには隆起型と平坦型があります。 隆起型の切除は「出っ張りのあるこぶ」を切除しますから危険性はありません。しかし,平坦型の切除は腸の壁自体に傷を作ることになりますから,技術的に数段,難しく慎重に操作しないとこのような穿孔事故をおこすことになります。
解説
直ちに「平坦型ポリープの切除は危険だから受けない」と考えるのは得策ではありません。
平坦型ポリープは隆起型に比べ,「癌化しやすく,癌化した場合は短期間のうちに下に浸潤し転移しやすい」ことがわかっています。平坦型こそ積極的に内視鏡切除すべき病変なのです。このタイプの事故は残念ながら無くなる事はありません。最近は以前でしたら,開腹手術していたような大きな平坦型も内視鏡で切除するようになってきました(内視鏡医の外科への挑戦とも言われます)。開腹手術では1ヶ月の入院が必要なのが内視鏡なら4~5日ですみます。恩恵を受ける方が増えているのですが同時に,穿孔事故も増えています。
アドバイス
(1)平坦型は経験の多い専門医にお願いする (2)平坦型の切除の前に危険性について医師に十分な説明を求める (3)切除後,お腹の痛みがあったら食事を一切しないですぐに医師に連絡する(4)そして,万が一の場合・・・・・医師が迅速,親身な対応をとらなかったら訴訟も検討しましょう
|
|
大腸内視鏡とレントゲンで異常無しといわれたが半年後に進行癌に
事故のあらまし
レントゲンで異常無しといわれたが半年後に進行癌に。
血便が出たため近医を受診し,大腸内視鏡をおこなった。しかし,子宮の手術をしており癒着があり,内視鏡が途中までしか入らなかった。後日あらためてレントゲン検査をおこなったがヒダと屈曲が多くわかりにくい腸であった。「異常なし。半年後位したら再検査」の指示をうけて終了した。半年後,激しい腹痛のため緊急入院。進行大腸癌による腸閉塞であった。手術がおこなわれた。
なぜ事故(見落とし)が起きたか?
大腸は胃と異なり「ヒダ」がたくさんあります。また(特に腸の長い方は)屈曲した腸管が何重にも重なります。そのため大腸検査には死角ができることがあります。死角はレントゲンでも内視鏡でもありますが,内視鏡の方が死角が少ないのが通常です。しかし,癒着が強いと内視鏡が奥まで入らないことがあり,このような見落とし事故が起こることになります
解説
「大腸検査の見落とし」は昔から専門家の議論になる問題です。様々な要因が原因となります。腸の重なり,腸のヒダ,便の残り,多発する憩室などが複合して見落としを生みます。内視鏡の方がレントゲンよりはるかに見落としが少ないのですがそれでもヒダの裏側は内視鏡の弱点で見えにくい部分です。専門医はただ挿入するだけでなく,「いかに見落としを無くするか」も研究しています。内視鏡を腸管内で反転させたり,広角の内視鏡を使ったり,内視鏡の先にCAPを付けたり(下図)といった工夫をしています。
アドバイス
これは結局のところ医師の熱意に頼るしかありません。検査前に,医師に「ヒダの裏側もなるべく見てください。」と遠慮せずにお願いしましょう。内視鏡検査時に患者さんも医師と一緒にモニターを見ていましょう。医師が「細神経質な方だな・・・・」と感じるくらいが,ちょうど,よい検査になるはずです。
|
|
胃カメラで異常無しといわれたが半年後に進行癌に
事故のあらまし
毎年,会社の検診(レントゲン検査)を受けていた。昨年はレントゲンで「影がある」といわれ胃カメラを受けたが「小さな潰瘍の跡のみ」といわれた。細胞検査もおこなったが良性であった。
今年になって食欲が無くなったためもう一度胃カメラを受けたところ進行胃がんが見つかった。すでに癌性腹膜炎の状態で医師から家族には「余命3ヶ月」と宣告された
なぜ事故(見落とし)あが起きたか?
似たような事故ですが前述の大腸検査の見落としとは全くことなるものです。癌はスキルス癌(印鑑細胞癌)でした。これは,胃がんの中では最も悪性度が高く極めて早い速度で増殖し,時には数ヶ月で転移することもまれではありません。おそらく1年前には癌がなかった可能性が高い(あっても極めて微少なもの)です。
解説
癌には「おとなしい癌(発生してから数年で進行癌になる。分化癌)」と「急速な癌(発生してから数ヶ月で転移し進行癌になる。未分化癌)」があります。大腸がんは代表的な「おとなしい癌」です。胃がんも9割は「おとなしい癌」なのですが残り1割は「急速な癌(スキルス)」です。食道癌はスキルスほどではありませんが「やや急速な癌」です。大腸検査が癌自体よりも前癌病変(ポリープ)の発見・治療を重視しているのと異なり,胃検査は癌の早期発見を目標にしています(胃がんには明確な前癌病変はありません)。しかし,検診の対象となるのは9割の「おとなしい癌」で,残念ながらスキルスが早期発見されるのはかなり幸運な場合だけです。
事故に遭わないためのアドバイス
これも前述の事故と同じで,結局のところ医師の熱意に頼るしかありません。検査前に,医師に「小さなスキルスが恐いので,時間をかけてよく,見てください。」と遠慮せずにお願いしましょう。医師が「勉強している方だな・・・・」と感じるくらいが,よい検査になるはずです。
|
スキルス胃癌(色素で解り易くしています) |
ERCP(胆道膵管造影検査)後,急逝膵炎となり長期入院
事故のあらまし
50歳の会社社長。人間ドックをうけた。それまでお腹の調子は良好であった。超音波検査にて「膵管(膵臓の中にある管)」が拡張しているのが見つかった。医師より「慢性膵炎か膵臓に腫瘍ができている可能性がある。入院の上,精密検査が必要」との説明をうけ大きな国立の総合病院を紹介された。1泊入院の予定でERCP(胃カメラを使って膵管に細いチューブをいれ造影する検査)」をおこなった。翌日,激しい腹痛が発生。重症急性膵炎と診断されICU(集中治療室)で1ヶ月の入院治療が必要となった。
なお,ERCPの結果は良性の慢性膵炎であった。
なぜ事故が起きたか?
急性膵炎はERCPの合併症で最も多いものです。軽症も含めますと1~2%位の頻度で見られます。まれに重症膵炎となると死亡率も高く重大な結果になります。
ERCPはあらゆる内視鏡手技の中でもっとも難しく合併症の多いものです。
理由は二つの面があります。
一つは膵臓は極めて刺激に弱い臓器で異物の進入で容易に炎症を起こすという事です。
二つ目の点としてERCPは高度な技術を要するが検査の頻度は多くなく,しかも側視鏡という普段,使わない内視鏡を使います。どうしても側視鏡に慣れ,ERCPの経験の豊富な医師は少ないのです。
解説
最近はERCP以外の危険性のない他の膵臓の検査方法がたくさん開発されています。(超音波内視鏡,MRCP,高解像度ヘリカルCTなど)。これらはERCPにくらべると,“やや”精度が落ちます。
膵臓癌は極めて悪性度が高く,画像としてとらえられる2cmでもほとんどが進行癌です。2cmではERCPでも見つからない事が多く,危険を冒してERCPをおこなう意義はあるか?膵臓癌の診断にERCPが不可欠か?は医師の間でも議論になります
事故に遭わないためのアドバイス
ERCPを勧められたら他の検査(超音波内視鏡,MRCP,高解像度ヘリカルCT)では不十分なのかを医師によく確認し,できるなら「ERCPの専門家」にお願いするのが理想です。間違っても「簡単な検査」と思ってはいけません
。
|
|
|