CF挿入論

 鈴木雄久

最近当院にCFの見学に来られる先生が増えてきた。私のような若輩が挿入論を言うのは10年早いと思っていたが、この辺で挿入論を再整理しようと思う

まず、用語の再確認をしたい。特に「軸保持短縮」という用語は混乱が多い。次のように分類すればわかり易いと思う

(1)どこかでループ解除(Right Turn shortoning)をおこなう挿入法・・・ループがαかNかは問わない

  1. SDJを超えてからDCまたはSFで「大きな」ループを解除する挿入法
  2. SCのどこか(SDJの前)で「小さな」ループを解除する挿入法・・・SDJは直線的に通過する

(2)一切のループ解除を必要としないNOループ挿入法(PUSH無しでアングル操作だけで挿入する)

 

通常、軸保持短縮とは(1)−2、と(2)のことを指す

(1)−1は軸保持短縮とは呼ばない

「SCで軽く押してから引き戻す」挿入も、ループというほどではないが(1)−2にするのが厳密である。

区別するために、私は(2)のみを「ストレート挿入」と呼んでいる。

(1)−2は、いわば「セミ・ストレート」である

Tのループについてはこちら・・・


挿入時間は・・・SCの長い同一症例に検査すると仮定すると、この表で下に行くほど長くなる。オピスタン使用下での(1)−1の挿入は極めて短時間での挿入が可能である。「きれいなループ」をつくりRight Turn shortoningを「スパッ」と決めると気持ちよく入る・・・・・・・私が研修医だった頃(平成初期)は「これが常識」であった

時に軸保持短縮は短時間で挿入可能という意見を聞くが、これは間違いである。たまたまSの短い簡単な例が短時間でストレートに入ったという結果論である。Sの長いケース(パターンC)で議論すべきである。

挿入成功率は・・・・高度癒着例では(1)−1は低下する。

快適度は・・・・この表で下に行くほど高くなる。特に(2)は「機械が入っているという異物感も全く感じない」ことが多い

検査の安全性は・・・・この表で下に行くほど高くなる。穿孔事故を自分ないし身近なベテラン医師が経験すればわかることだが、ループ解除をおこなう挿入法は、常に「潜在的な穿孔の可能性を秘めている」。危険はPUSHではなくて、「解除作業」に潜んでいる。「やさしくPUSHすれば大丈夫」なのではない。


参考:私の最近の実績を言うと

約85%が(2)

約15%が(1)−2

(1)−1は1〜2%・・・・この場合は麻酔(オピスタン)が必要なことが多い


かって工藤先生が「軸保持短縮」を世に問うた頃・・・・多くの医師には「幻の神業的挿入技術」であった

手前味噌であるが私は1999年「先端フード+無送気で、誰でも(2)の挿入ができる」という主旨の学会発表をおこなった。

 

 

 


我々Colonoscopistが目指すべき「究極のCF]とは?


軸保持と「ループ解除」の、どちらがベストかについてはいろいろな意見がある。軸保持派VSループ解除派の「論争」はかなり昔からあった。

短時間のうちにたくさんの検査を処理しなければならない条件なら(1)−1の挿入の方が有効であると思う。

私自身は「NOループ率の向上」を至上としてCFをやってきたが、挿入時間短縮と相反するのが大きな悩みである。

時間の制約が無ければNOループ率=100%ができる!と同僚に豪語したこともある。

Sをストレートに進んで行き、もう少しでSDに届かない・・・という時、ジレンマに陥る

粘ってストレートか、さっさとPUSHしてRight Turn shortoningかというジレンマである

「Sの長い場合でも、速くてNOループで挿入する」にはどうするか?

未だ解答が見えない。

結局、ハードウエアー、ソフトウエアーの改良が必要と思う(下記)

最近出た本「腸にやさしい大腸内視鏡挿入法」はお勧めである

この本には今まで工藤派の「門外不出」であった(?私の思い込みか)「Noループにするコツ」が、いくつか「種明かし」されている

と、同時にループも容認しているのも注目したい

工藤先生門下の先生は「ループを認めないタカ派」と思っていたが、私と同じジレンマに悩んでいるのがわかった


以下、「NOループ率の向上」について解説する


高名なO先生(ループ解除派)が1995年に出した本によると

「日本人の30%はフッキングザフォールドのみで入り、70%はループを作る」とある

工藤先生が1997年に出した本では「70%がパターンA(NOループ)で入る」とある

つまりこの差40%が「技術的違いでループにもNOループにもなる」グループである。

一方、同一の患者でも「直腸まで抜いて再挿入」したり「下剤を増量」するとループ挿入だったのが、NOループになることも多く「腸の状態」も大きい因子である

また「他医院で高度癒着のためCF困難」とされた再検査のようなケースは、ほとんどが「NOループ」ではいり、逆に毎年検査している、いかにも検査の簡単そうな中肉中背の男性がループになることが多い。

なぜか?

高度癒着例は「時間をかけて丁寧に挿入する」のでNOループになり、簡単なケースは時間をかけないからループになるのである

 

以前あるCFの専門家が患者さんを連れて来院したことがある。3回ほど、色々とトライしたがTCSできなかったとのこと。当院が他での挿入失敗例が成功しているとの噂を聞き、検査に立ち会いたいとのことだった。注腸を見ると確かに異常に長い腸であった。また「呑気症」タイプなのか無送気にもかかわらず最初から腸管内に大量の空気があって腸が膨らんでいるタイプであった。

多分、神業的な挿入技術を見れると期待していたと思うが・・・・実は勘違いである。彼の技術は、十分一流だからだ。

私がおこなったのは「下剤を倍量にして十分にきれいにする」ことと「十分な吸引、脱気」だけである

盲腸までの挿入時間は20分くらい、このうち実に8割くらいを「吸引、脱気」に費やした


圧力センサー付きコロンモデル

挿入中に腸壁に加わった圧力の表示される「圧力センサー付きコロンモデル」が開発されれば挿入技術のトレーニングと評価に有用と思う。

私が人生で求める究極のCFは・・・・「圧力=ゼロ」で「水が流れて入って行くように」進んで行くCFである。


このような内視鏡ができたら・・・・・・

高度癒着、過長な腸でも短時間で麻酔ゼロで検査時の不快感ゼロ、ループゼロ、挿入成功率ほぼ100%・・・・・そんな「究極のCF」は可能だろうか?

私はハードウエアの改良により、理論的には「究極のCF」は可能だと思う

このように考えると、実は「今、我々がCFの技術向上に費やしている努力」などは(私がサイトで公開している「他院失敗例の再検査成功のデータ」なども)・・・・・・未来には新しい機種の登場で何の意味も無くなると予想される


しかしそれでも我々は恵まれている

最近、医師の外科離れが問題となっている。この理由の本質は「外科医の技術は患者には理解できない」からである。手術は完全な密室の作業であり、我々内視鏡専門医でさえ「どの大腸外科医師の技術がどの点で優れているのか?」「手術でトラブルが起きた場合、外科医の技術が低いからなのか難しい手術だったからなのか?」判断できない。まして、患者に理解できる訳は無く、ハイエナ弁護士がつくと、すぐに裁判になる。これでは医師の意欲が無くなる

この点、我々の仕事は公明正大・ガラス張りである。患者は「複数の医師に複数回」の検査を受けることが多い。我々の技術を最も正確に評価できる人物はそのような患者自身である。他院失敗例の再検査で成巧すれば患者は最高の称賛を与えてくれるし、失敗すれば「もっと努力しなければ」という謙虚な気持ちになれるが、いずれの場合でも「意欲」は更に強く燃え上がり、無くなることはない。