大腸内視鏡の「命の延長効果」を経済的に考察する

大腸検査は1日がかりの検査であり、検査を受けることによる「経済的損失」は決して無視することはできません。大腸内視鏡を経済的観点から考察してみます

2012年米国で大腸内視鏡でポリープを切除することで「大腸癌死亡」の半分が予防できるという報告がありました( 下図 The National Polyp Study N Engl J Med 2012; 366:687-696.)


論文内容を要約しますと

平均すると我々は23年間で100人中48人が死亡します。この48人のうち2人は大腸癌による死亡です。

(正確には23年間で2600人中1246人が死亡した。その内25人が大腸癌による死亡)

定期的な大腸内視鏡(+ポリープ切除)を受けたグループでは・・・・・

100人中48人が死亡します。この48人のうち1人は大腸癌による死亡です。

(正確には2600人中1246人が死亡した。その内12人が大腸癌による死亡)

つまり大腸内視鏡による大腸癌の死亡抑制効果は50%であった・・・というのが今回の報告です。


以下、私の計算です

何歳の方に、どの程度の間隔で大腸内視鏡が施行されたかなどの詳細なデータは論文にはありません。平均的な数字でモデル・シュミレーションします。

まず大腸癌で死亡するのが平均65歳、平均寿命が85歳(平均して20年寿命が縮まる)と仮定します。

米国では「10年に1回の内視鏡 プラス 毎年の便潜血検査(ただし危険なポリープが見つかったら3年後に内視鏡)」というのが平均的な検査として推奨されています

多くの方がこの推奨に従ったと仮定すると50歳、60歳、70歳、80歳で大腸内視鏡を受け、途中1回くらいは「危険なポリープ」が見つかり、1回余分に受けると考えると、生涯の大腸内視鏡の回数は平均5回位でしょう。

2600人が生涯、平均5回の大腸内視鏡を受けることによる経済的損失=2600x5=13、000日

2600人がその結果、受けた生存延長の恩恵=(25−12=13)x20年x365=94,900日(一人当たり36日間の生存延長)

94900/13000=7日ですから

期待値として「1回(1日を費やしての)の大腸内視鏡で7日の命を得ることができる(6日の生存を得をする)」・・・・という計算になります。


これは様々な人の平均値であり、大腸癌危険性の高い方はメリットはより大きくなります。

とりあえず・・・・危険因子の不明な方(つまり平均的リスクの方)が大腸内視鏡を受けるべきか迷っている場合に、「1日を費やす価値はある。期待値として6日間命が延びるのだから」と検査を決断する一つの材料になるでしょう

 



このシュミレーションを別の角度から見てみましょう

大腸内視鏡に費やす生涯の日数が「36日間以下なら得」「36日以上なら損」という計算になります。

もし1回の検査に「事前診察+最初の検査+ポリープ切除は後日+細胞検査の結果説明」などで多大な日数を損失すれば・・・・

大腸内視鏡による延命メリットは小さくなります

延命メリットを大きくするためには「生涯の内視鏡の回数」を抑制し、1回の検査にかかる日数を抑制する必要がある訳です

(1)1度の内視鏡で、できる限り多くのポリープを切除する
(2)無意味な経過観察のための内視鏡を抑制し便潜血検査に切り替える
(3)事前診察・細胞検査の結果説明等の事務的な診療を合理化する
・・・・などが重要な訳です


将来は・・・こんな保険ができるかも。