STD(性行為感染症)の若年性直腸・肛門癌


我々の口腔内には多様な発癌性ウイルスが感染し常在しています。HPV,ヘルペスウイルス、アデノウイルス、EBウイルス、CMVウイルス、JCウイルス、ポリオーマウイルス、レトロウイルスなどです。他にも、未知の発癌性ウイルスが多くあるはずです。

これらのウイルスは人間の接吻や動物のグルーミング(舐め合う行為)を介して伝搬し、口腔癌、咽頭癌、食道癌、気管支癌などの原因になります。ウイルスの戦略として、これほど効率の良い手段は無いでしょう。しかし、通常は直腸・肛門に達することはありません。

しかし「肛門性交」をした場合、これらのウイルスは、肛門に確実に感染し肛門癌の原因になります。
肛門癌の大部分は「Tranzitional Zone=TZ=移行帯」に発生しますが、TZの粘膜は口腔・咽頭と同じだからです。



最近、若い女性、男性同性愛者での肛門癌の増加が問題になっています。

子宮頸癌と陰茎癌がSTDである、というのは現在では医学の常識ですが、肛門癌も3番目のSTDである、というのが常識になりつつあります。

上記のように多くの発癌性ウイルスが、ありますが、最凶はHPVウイルスです。最も有効な予防はHPVワクチンですが、このワクチンは小学生の頃までに打たないと癌予防効果が弱いようです。しかし、現在の日本の状況(世界で最もHPVワクチンが遅れている)からは、到底、実現は不可能でしょう。
ここではHPVワクチン副作用の問題には触れません。将来は、より副作用の少ないワクチンが開発され「実は日本の選択が正しかった」という結論になるかもしれません。確実に言えることは・・・・日本は世界最大の肛門癌大国になるだろうという予測です。

「内視鏡開始時の問診で(1)子宮頸部腫瘍の既往(2)男性同性愛者か(3)肛門性交の経験(4)パートナーに咽頭癌、食道癌等があるか、を確認し、該当者は内視鏡検査時に肛門も念入りに診る」という案もあります。これは「胃カメラの時に大量飲酒者は、食道観察にヨードを使う」という戦略と同じであり、有効だと思いますが社会的なコンセンサスを得るのは難しいと思います。

一つ、朗報があります。HPVが原因の場合は扁平上皮癌が発生するのですが、この癌は放射線・化学療法が、よく効くので最近は人工肛門が回避されることが多いようです。一方、他の肛門癌(腺癌、内分泌癌)も増加しており、これらの癌の場合は人工肛門が避けられません。これらの癌も慢性炎症(感染)が重要な母地になります。我々の大部分が、肛門に慢性炎症があります。つまり「痔」です。痔は機械的な刺激が原因と信じられて来ましたが科学的には謎の多い疾患です。動脈硬化は以前は高脂血症の結果と考えられていましたが、現在は血管壁への細菌感染による慢性炎症という理論が主流です。「痔の研究」も大変革が起こるかもしれません。

以下は私の私見です。
感染症は、必ずしも肛門性交だけが原因ではありません。HPVは消毒に抵抗性があるので、内視鏡の消毒が不十分なら「大腸内視鏡で感染する」危険があります。また、HPVは環境中で不活化しにくいのでウオシュレットも感染源になる可能性があると思います。私見ですがウオシュレットの使用は家庭内だけにすべきと思います。