ポリープ切除後の再検査間隔について
基本となる重要な事実
ポリープが癌化する確率は大きさによります。
「5ミリ以下では癌は稀」「10ミリなら10%が癌」「20ミリなら50%が癌」です
前処置不良などの特別な事情が無ければ内視鏡で5ミリ以上のポリープが見落とされることは稀です。
従って内視鏡で見つからなかった、(または放置された)5ミリ以下のポリープの成長速度が問題になります。
平均するとポリープの「サイズが倍になる期間」は5年位と理論的に計算されています(石川勉 胃と腸 24:167−178,1989)。したがって仮に内視鏡で4ミリのポリープが見落とされたとしても、これが癌になるのは5〜10年後と推測される訳です。
しかしながらポリープの倍化時間は「ばらつき」が、あります。大部分のポリープは「ゆっくりと成長」ですが、稀に一部は「比較的急速に発育」します。この「ばらつき」のためガイドラインに従っても稀に癌が見つかることがあります。ガイドラインはあくまでも「99%の安全」を保証したものであり「100%」ではありません。
現時点で日本には「大腸内視鏡検診のガイドライン」はありません。現在、最もよく研究されている米国のガイドラインを紹介します
米国は「医療を経済効率から考える」という風潮が強く、日本よりも以前からガイドライン作成に熱心でした。米国のガイドラインは以下のようなものです。(文献)
内視鏡検査の所見 |
推奨される次回大腸内視鏡の時期 |
ポリープが無い。または小さな過形成ポリープのみ |
10年後 |
危険性の低いポリープを切除(10ミリ以下 and 1〜2個) |
5年後 |
危険性の高いポリープを切除 (10ミリ以上 or 3個以上 or 高度異型腺腫) |
3年後 |
ポリポーシス(多数のポリープができる特殊な体質)、例外的に危険性の高い特殊な場合 |
1年後 |
以下の2点が書き添えられています。
(1)ガイドラインは平均的なリスクの患者を想定している。癌で手術された患者さん、遺伝性の癌体質、炎症性腸疾患の患者さんなど特殊なケースは別に考える。
(2)内視鏡で確認できるポリープは全て切除することを原則とする。ポリープの取り残しの危険がある場合、見落としの危険のある場合は別個に考える。
つまり「平均的なリスクの患者さん」で「大腸の洗浄が完璧」で「憩室、癒着などの見落としの原因となるものも無く」「医師が注意深く検査をしポリープを全て完全に切除した」理想的な状況で適応されるものという考えです。
現実的に米国では「ガイドラインどおりに検診をしても「毎年、700人に一人は大腸癌になる(Interval Cancer)」と報告され(文献)「10年後は長すぎるのでは?」という議論もあります。しかし、米国の学会は「IntervalCancerは医師の不注意・技術不足。あるいは特殊な例外的な癌が原因」という立場であり、このガイドラインを、「変更の必要の無い完成されたもの」と考えているようです。(このガイドラインは2006年に公表され2012年に「問題は無い」と再確認されています。)
学会が医師に「大腸内視鏡のやりすぎを戒める」時代
人生を通して大腸内視鏡を頻繁に受ければ大腸癌は予防できます。しかし、例外的にハイリスクの患者さん以外は、そのような医療はナンセンスです。なぜなら検査で期待される生存日数の延長より検査に費やす日数の方が大きくなってしまうからです(参考)。
現在は「いかにして少ない回数の検査(=長い検診間隔)で大腸癌を予防するか」が重視されており米国のガイドラインは「検査回数を抑制せよ。そのために1回の検査の精度を上げよ」という点を最も強調しています。
現実的には日本の多くの医師は、この米国のガイドラインを「理想を示した参考資料」とし、実際はこれよりも「短めの間隔での」検診を勧める場合が多いです(現在、検討中の日本のガイドラインは3年毎です)。そして、実情は米国でも、あまり変わらないと言われています。
低リスクと判定され「次回は3〜10年後」と言われた場合、その期間中に便潜血検査は受けるべきか?
これは色々な意見があります。低リスクの方が便潜血を調べても痔で陽性になる確率が高く無益な場合が多いです。しかし、内視鏡の万が一の「死角」をカバーするために内視鏡の間隔が長い場合には「毎年の便潜血検査」を組み合わせるべきである(Hybrid
Screening)というのが最近の主流の意見です。
高齢者は何歳まで検査を続けるべきか?
この問題も最近、よく議論されます。ポリープを完全に切除すれば10年間は大腸癌による死亡の危険は「極めて低い」です。一方、超高齢者は検査に伴う危険性(下剤で脱水を起こす)も無視できません。最終的には個々の患者さんの体力と大腸癌のリスクを考慮し決めることになりますが、75歳を超えたら無理をすべきではなくリスクも考慮し検査の打ち切りも考慮する、85歳を超えたら内視鏡検査のメリットはもはや無い。と上記のガイドラインは記述しています
医師は大腸癌にならないことを保証できるか?
繰り返しますが上記のガイドラインは「絶対に大腸癌にならない期間」を保証したものではありません。検査を一生、頻繁に続けることは、かえって人生の時間の損失になるという考えから「この位の間隔が最も賢明な選択である」という確率的な話です。「見落としの無い観察をしています」と公言する医師は多いですが、誰も「保証」をしている訳ではありません。大腸癌に絶対にならない方法は「毎年の検査」しかありません。それは過剰検査であり患者さんには不利益な医療でしかありません。しかしながら患者さんの立場にすれば、大変な思いをして検査を受けるのは、「保証」がほしいからです。
この問題の解決はどうすればいいでしょう?
一つの案として検査後に「掛け金」を戴き、積み立てて置くことで「検査後5年間、大腸癌にならないことを保証し、もし大腸癌になったら補償をお支払いする」という保証制度が考えられます。法的な問題もあり、すぐに実行は難しいですが、今後、検討する価値は十分にあると思います。